このところ、ちょっと滝田ゆうづいていて、昔読んだものだけでなく、未読作品もインターネットで取り寄せて読んでいる。
Web2.0(古いか)とかロングテールとかいう話にはあまり興味が湧かないが、滝田ゆうのような、普通の書店にはあまり置いてない本を簡単に手に入れられるのは、単純に便利だと思う。
滝田ゆうを読んでいて、というか、見ていて、凄えなあ、と思うのは、その画力である。
代表作「寺島町奇譚」は、滝田ゆうが生まれ育った、戦前の東京の私娼窟街、玉の井を舞台にした作品で、あちこちに出てくる町の絵が実に素晴らしい。例えば、この絵。
これでは何だかわかりませんね。
アップで見てみる。細かな描き込み、線の具合がとてもいい。
土埃や、どこからか漂うドブのにおいまでしてきそうだ。
滝田ゆうはアシスタントを使わなかったのだそうで、これ、全部、滝田ゆう自身の手になる。
定規も使わなかった(本人曰く、「使えない」)んだそうで、フリーハンドのペンの線を一本一本引いて、編み上げている。織物のようなものだ。いったい、この絵一枚にどれだけ時間がかかったのだろう。
電柱や、自動車が吐き出す水の線なんて、眺めていて、不思議な感興をもよおす(横着なデジカメ写真ではわからない。本屋で見かけたら、ぜひ手に取ってもらいたい)。
そのこと細かな絵が、見開き全体にどーん。
それを、下手すると、1秒とたたずに読み飛ばしてしまうのだから、読者というのは贅沢なような、迂闊なような。
玉の井の駅のホームを描いた絵。
絵にはかなわないな、と思う。
言葉なら、「木の電柱」とか、せいぜい「節穴の残った電信柱」くらいで済ますところを、滝田ゆうは、線を丁寧に重ねて描いていく。
わたしの想像に過ぎないが、〆切や何かに追われていたとしても、滝田ゆうは、こういう絵を、愛情を込めて、できあがっていくことに喜びを味わいながら、描いていったんではないか。
ちょっと松本大洋の絵も、思い出す。
松本大洋が滝田ゆうから影響を受けているかどうかは知らないが(たぶん、違うのではないか)、「ピンポン」などにある湘南の町の風景も、フリーハンドの線で、丁寧に、愛情を込めて描かれている。
2人の町の絵から受け取るものを、平板に“町並みへの愛情”と呼んでしまうと、ちょっとつまらない気がする。もっと、ペンを動かすときの肉感的な喜びが関係しているように思う。
わたしは、滝田ゆうの絵を見ていると、アイスキャンディーを囓ったり、甘酒を飲んだり、おでんを食べたくなったりしてくる。
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「今日の嘘八百」
嘘七百九十一 滝田ゆうの描く「タイガーマスク」は実に泣けたという。