怨歌劇場

怨歌劇場 (宙コミック文庫 漢文庫シリーズ)

怨歌劇場 (宙コミック文庫 漢文庫シリーズ)


 またしても滝田ゆう
 この本は傑作、あるいは名作だと思う。


 野坂昭如の短編小説を滝田ゆうが漫画にしたもので、有名な「火垂るの墓」や「エロ事師たち」などが収められている。


 私は原作を読んだことがないので比較はできないけれども、共作とはいっても、作品世界は完全に滝田ゆうのもののように感じる。
 ただ、他の滝田作品が、絵を描き込むことに入れ込むあまりか、ストーリーがぼうとしているのに対し(そのぼうとしたところが滝田作品の魅力でもあるのだが)、野坂昭如原作のこちらは、どれもストーリーのエッジがきゅっきゅっと効いている。


 描かれている時代は、戦中から昭和三十年代くらいまで。主人公は、たいてい、娼婦か、貧乏な男達である。



「娼婦焼身」より




エロ事師たち」より


 娼婦達はいずれも心やさしく、来た道が悲しく、末路が悲しい。
 男達はいずれもバカで、可笑しく、そして悲しい。
 これは、滝田ゆう単独の作品にも共通していえることだと思う。滝田ゆう野坂昭如は、心底にかなり共通するものがあるんではないか。


 それにしても、この、湿った段ボールのような貧しさの、豊かな表現はどうだろう。
 映画「三丁目の夕日」のような安易なノスタルジーではなく(ああいうのは昭和のディズニー化だと思う。好きになれない)、触れれば体温の感じられる過去である。


 哀切、という言葉を実感しました。

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「今日の嘘八百」


嘘七百九十四 文明とカミソリから隔絶されたターザンとジェーンがヒゲとむだ毛をどのようにして処理していたか、学界で論争が続いているという。