漫画家・滝田ゆう(1932 - 1990)描くところの滝田美人である(わたしが勝手にそう呼んでいるだけだが)。
パソコンで横着に真似ただけなので、オリジナルのペンの線の味わいは全然表現できないが、一本線を引くたびに、“色っぽいなー”と悦楽を感じた。白状すると、情欲すら覚えた。
模写してみて初めて気づくことというのもあって、滝田ゆうは全てを、フリーハンドの線を重ねることで表現している。
例えば、目も眼球を描かずに、横線を何本も重ねることで、ぼうっとした潤みを表現しているのだ。
髪の毛も、わたしは横着して本数を減らしたが、元の絵はもっと細かい線の集まりで、それが、近づくと匂いすらしそうな生々しい色っぽさを生んでいる。
滝田美人は、いったい、何に由来しているのだろうか。
絵というのは、一般に前の代の何かを受け継ぎ、時にそれに工夫を加えて伝わっていくものだと思うが、滝田美人に似た絵を見た覚えがない。滝田ゆうの全くのオリジナルなのだろうか。
滝田美人の最大の特徴は、ご覧の通り、目鼻の不思議な位置である。
特に口は、これで飯を食えるのか、と思うようなおちょぼ口が、思いっ切り端に寄る。中に来ることは絶対にない。
試しに、口を真ん中に持ってきてみよう。
稚拙な絵になってしまう。
目の位置は高い。これを、普通の人間の顔のように下におろすと、やはり、駄目なのである。
ところが、口、目ともにずらすと、案外、美人になる。
口だけ、目だけずらしても駄目だが、口と目の両方をずらすと、見られるようになる。“普通の”バランスになるからだろうか。
もちろん、ずらしすぎはよくなくて、福笑いのように動かすと、
ピカソみたいになってしまうのだが、不思議に色っぽさはある。パーツのひとつひとつが色っぽくできているからだろうか。
実際、模写してみてわかるのは、滝田美人のパーツがとてもよくできているということだ。
潤むような目、おちょぼ口、内心の昂まりが漏れ出たほんのり赤みさす頬、折れそうなくらいの細い首……日本の昔からの「美人」、「色っぽさ」の特徴がよく表現されている。
鬢のほつれ、というパーツを加えると、さらに色っぽくなる。下の絵の上下を比べてみていただきたい。上は最初に出した滝田美人、下は後ろ髪と鬢のほつれを加えたものである。
鬢がほつれると、ちょっとあだっぽい感じになる。そういう意味では、滝田美人はすこぶる記号的というか、目、頬、口、髪と記号の集合体のように思う。
日本髪だと、もっと色っぽく、いっそ寝乱れ髪というくらいたまらん感じになるのだが(ああ。)、描くのが大変なので、ご勘弁いただきたい。
滝田美人はとてもいい。大人の絵だと思う。
この頃、お子ちゃま感覚のものばかりがノしているが、こういう感覚が、もっと見直されてもいいように思う。
- 作者: 滝田ゆう
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/09
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 10回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
- 作者: 滝田ゆう
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/03
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 33回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
「今日の嘘八百」
嘘七百八十八 1日に1人あたり10分間呼吸を止めれば、日本全体で年間約900万tのCO2削減になるという。