70歳を過ぎてから監督として花開いたクリント・イーストウッド

 クリント・イーストウッド監督の「ブラッド・ワーク」を見た。

 

 2002年の作品である。心臓移植を受けた元FBI捜査官が強盗事件の犯人探しをするうちに、実は事件は自分の心臓移植が関係していることに気づき・・・というなかなか面白そうな筋書きなのだが、作品自体は少し平板に話が進み、メリハリがあまりなく、まあまあというところか。

 クリント・イーストウッド監督といえば、「ミスティック・リバー」「ミリオン・ダラー・ベイビー」「グラン・トリノ」「インビクタス/負けざる者たち」など、緊張感が高く、メリハリの効いた作品を作る印象がある。映像は独特のブルーがかった色調で、それが作品にクールな印象を与える。しかし、「ブラッド・ワーク」にはそういう良さはあまりなかった。まだ作風を確立していない感じがした。

 監督としての作歴を見ていてわかったのだが、クリント・イーストウッドは1930年生まれ。「ブラッド・ワーク」の時点で、もう72歳である。普通なら監督業を引退してもおかしくない年齢なのだが、その後、「ミスティック・リバー」(73歳)、「ミリオン・ダラー・ベイビー」(74歳)、「グラン・トリノ」(78歳)、「インビクタス/負けざる者たち」(79歳)と、作品のクォリティがぐんと上がる。70歳を過ぎて監督として成長を見せた人というのはあまりいないのではないか。おれの好きな「リチャード・ジュエル」なんて89歳のときの作品だ。ハリウッドでの尊敬度も非常に高いと言う。

 普通、クリエイティビティというのは40歳くらいから下がり始め、50代ともなるとかなり落ちると言われるのだが、クリント・イーストウッドは全然当てはまらない。

 異常値と言っていいくらいの尻上がりのキャリアである。