ラテンアメリカ小説遍歴

 しばらく小説はあまり読んでいなかったのだが、年末年始にガルシア・マルケスの本を何冊か読んだら、自分のなかでラテンアメリカ小説ブームとなってしまった。

 最初に、読みさしになっていたガルシア・マルケスの「予告された殺人の記録」を読んだ。前に読み始めたときはなんとなくノレず、最初のほうだけでやめてしまったのだが、あらためて読むと、中盤以降が面白く、あれよあれよ的な展開で、最後のクライマックスはいかにもガルシア・マルケスらしい筆力で唸った。

 

 

 続いて、同じガルシア・マルケスの「物語の作り方」。ガルシア・マルケスが中心となってキューバで開いたワークショップの記録。若いシナリオライターや映画監督たちを集めて30分のテレビドラマのストーリーをワイワイ一緒につくるという内容だ。みんなでアイデアを出し合うのだが、ガルシア・マルケスがアイデアを出すとストーリーが途端に生き始める。その様が面白く、またガルシア・マルケスのユーモアあふれる人柄が感じられて、よい読書体験だった。

 

 

 続いて、バルガス・リョサの小説「密林の語り部」。ペルーのリマとアマゾンを舞台に、ユダヤ人の青年が未開のインディオの部族の語り部へと転生する様が描かれている。語り部が語る部族の神話的物語とリアリスティックな描写が交互に書かれ、ミステリアスさとサスペンスがある。バルガス・リョサを読むのは初めてだったのだが、望外によかった。

 

 

 これも読みさしになっていたガルシア・マルケスの中編「エレンディラ」。いやー、参った。面白すぎる。祖母に荒野で娼婦として稼がせられるエレンディラのお話なのだが、お伽話的な描写で一気読みした。

 

 

 ガルシア・マルケスづいたのとバルガス・リョサが面白かったので、その名も「ラテンアメリカ文学入門」を読み、いろんな作家を知った。よくまとまっていて、あれこれ読みたくなった。

 

 

 「ラテンアメリカ文学入門」で知ったアレッホ・カルペンティエルの「失われた足跡」。ニューヨークらしき都会からアマゾンの密林を旅した男の物語。うーん、一文が長くて、いわゆる関係代名詞をそのまま訳したような訳文が苦しかった。カルペンティエルの傑作らしいのだが、心理描写が多くて、ちょっとおれにはつらかったな。密林のインディオの暮らしに安息を覚えながら、西洋音楽の作曲という西洋ど真ん中の精神活動をやっているのがなんだか不自然でもある。

 

 

 カルペンティエル再挑戦、というわけでもないのだけど、「この世の王国」。19世紀のハイチの独立闘争が舞台。人間がなんの不思議もなくいきなりイグアナになったり虫になったり鵞鳥になったりとラテンアメリカ文学魔術的リアリズム全開で、満足した。訳文も読みやすい。

 

 

 バルガス・リョサに戻って「緑の家」。5つのストーリーの断片が時間軸もいろいろにまぜこぜになる。語り口も断片によっていろいろ。「あれ? このストーリーはどこに当てはまるのだろう、こいつは誰だっけ」となることもしばしばだが、アマゾンとアンデスに生きるさまざまな人物の人生がだんだんと浮かび上がってきて、それを追うのが面白く、先へ先へと進ませる。しかし、ちょっと読みにくく、長かったかな。

 

 

 

 今はボラーニョの「野生の探偵たち」を読んでいる。ガルシア・マルケスの本も四冊ほど残っていて、まだしばらくラテンアメリカ小説ブームは続きそうだ。

 おれはあんまり読むスピードが早いほうではないのだが、こうやって見てみると1ヶ月ほどの間に結構な量を読んだな。おそらく日本の小説でこんなに立て続けに読みたくなることはないだろう。なぜだろう。ラテンアメリカがおれにとって探検の楽しい異世界だからかな。