相変わらずラテンアメリカの小説を読み続けている。ロベルト・ボラーニョの「野生の探偵たち」を読み終えた。
三部構成になっている。
第一部「メキシコに消えたメキシコ人たち」は1975年の話で、17歳の詩人ガルシア=マデーロ君の日記として書かれる。メキシコDFで若い詩人、芸術家の間で繰り広げられる物語だ。ガルシア=マデーロ君はウルセス・リマ、アルトゥーロ・ベラーノが主導する詩人集団「はらわたリアリスト」に加わり、ビートニクな毎日を送る。青春小説である。
第二部「野生の探偵たち」は1976年から1996年までで、ウルセス・リマ、アルトゥーロ・ベラーノと交錯した53人のインタビュー。
第三部「ソノラ砂漠」は1976年の話。詩人たちが、メキシコ北部の砂漠に消えた「はらわたリアリストの母」セサレア・ティナヘーロを探す。第一部と同じく、ガルシア=マデーロ君の日記として書かれる。
一番面白いのは第二部だ。さまざまな人物のインタビューを通して、ウルセス・リマ、アルトゥーロ・ベラーノの放浪の旅が見えてくる。彼らはメキシコ、フランス、スペイン、イスラエル、オーストリア、ニカラグア、アフリカ各地などを遍歴する。
インタビューの中でウルセス・リマとアルトゥーロ・ベラーノの行動がたっぷり語られることもあれば、ほんの少し垣間見えるだけのこともある。インタビューされる人たちはそれぞれ自分の人生のある部分を語り、その中にウルセス・リマとアルトゥーロ・ベラーノが(時に多く、時に少なく)登場する。逆にいうと、ウルセス・リマとアルトゥーロ・ベラーノを軸としながら、さまざまな人生のストーリーが語られる。後半に進むにつれ、その傾向は強くなり、短編小説の集まりみたいになっていく。ウルセス・リマとアルトゥーロ・ベラーノの人生を縦糸に、インタビューされる人たちの人生を横糸にして、織物が編まれていくかのようだ(縦糸が二本では織物にならないけれど)。
インタビューを読み進めるにつれ、ふたりの放浪詩人の人生に感興を覚える。そして、ウルセス・リマとアルトゥーロ・ベラーノの放浪の始まりである第三部「ソノラ砂漠」読むと、ふたりの人生にまた少し別の角度からの光が当てられたように感じる。よく計算された構成だと思う。
上下巻合わせて800ページだから、長い。しかし、中心となる第二部がその大部分を占め、さまざまな人生の側面が語られるから、次へ次へと読ませる。これから読まれる方は、インタビューされる人々のいろいろな人生を経験するつもりで読んでいけばよいと思う。