ナイポールの「ミゲル・ストリート」は面白うてやがて哀しき

 V.S.ナイポールの「ミゲル・ストリート」を読んだ。

 

 

 ノーベル賞作家、V.S.ナイポールの処女作だそうだ(二作目の「神秘な指圧師」が先に出版されている)。

 ミゲル・ストリートはカリブ海トリニダード・トバゴの都市ポートオブスペインにある。この貧しい町に暮らしているさまざまな人々について、少年の「僕」の目で語られる。全部で十七の短編から成っている。

 登場人物はどれもどこか奇妙な人々だ。たとえば、名前のないモノを作り続ける大工、自動車を手に入れては手を入れておかしくしてしまう男、新しい花火を開発しているが島のどこからも声がかからない花火技術者、等々。小学生くらいと思われる「僕」の目で見るから、青いごみ収集カートを乗りこなしてごみを集める男が最高にカッコよかったりする。そして、みんななんだか行き当たりばったりに暮らしている。

 作者のナイポールトリニダード・トバゴに生まれ、イギリスに留学してそのまま居ついた人だから、実際に彼が少年時代に見た人々がモデルになっているのだろう。

 小説のどこにも深刻さはない。もしかしたら深刻かもしれない話も深刻には語られていない。コミカルで、軽く読み流すことができる。

 しかし、連作小説も終盤となって、「僕」が慕うハットという人物の物語になると、何か哀愁がただよい始める。そして最後に、「僕」は成長し、トリニダード・トバゴを出てしまう。

 軽いのに、なぜか印象に残る不思議な小説である。