「笑う故郷」 悪夢の映画

 スペイン/アルゼンチン合作映画「笑う故郷」を見た。面白すぎる。

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 この年末年始、ガルシア・マルケスの小説を読んだのをきっかけに、ラテンアメリカ文学づいている。その余波というべきか、「映画もスペイン語以外、聞きたくない!」(小説の方はスペイン語でなくて邦訳で読んでいるのだけれど)というおれの人生の中で一度もなかった心理状況になって、「スペイン」「映画」で検索したらぶつかったのがこの映画である。

 予告編がある。

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 映画の前半はコメディというか、ちょっとスラプスティック調である。主人公(スペイン在住)がノーベル文学賞を受賞し、その何年後かにアルゼンチンの故郷、田舎町のサラスに帰ることになる。アルゼンチンに着いてすぐ、迎えに来たクルマがエンコするところで、早速爆笑してしまった。予告編にもあるが、消防車で街をパレードするところでまた爆笑。

 主演のオスカル・マルティネス(って初めて知ったのだけど)はこの作品でベネチア国際映画祭の主演男優賞をとったという。それもうなづける演技で、田舎町で受ける田舎くさい歓待の気まずさの演技がたまらなく、よい。

 しかし、映画の半ば、町の絵画コンクールの審査員をつとめるあたりから雲行きがおかしくなっていく(ちなみに、この絵画コンクールも笑ってしまう)。町の人々や、かつての友人とのズレがどんどん大きくなっていって、アレレ、アレレ、アレレと思っているうちに最後はまさに悪夢のような状況に陥る。

「悪夢のような」と書いたけれど、文字通りであって、おれはたまに目が覚めてはあはあ息をつくような悪夢を見ることがある。内容はあんまり覚えていないのだが、何かに追い詰められてひどく追い込まれる。そういう夢とおんなじで、映画自体がまるで悪夢を見ているような状況に陥るのだ。

 スラプスティックか、ハートウォームなコメディかと思っていたら、救いようのないスリラーに変わっていく。見事な映画だ。おすすめである。後味悪いけど。