普通の作文以上に手強かったのが、読書感想文である。
読んだ本の感想を書け、というのだが、これが難しい。
だいたい、今だって、よほど興が乗らなければ、本の感想なんてロクに書けやしない。小学生に無茶な要求をするものである。
わたしも含めたガキどもは困って困って困り果てたあげく、「とりあえずあらすじを書いておく」という手法を編み出した。
いや、何かの拍子に前の世代から受け継いだのかな? 美しいニッポンの伝統として。
ともあれ、読んだ本のあらすじを書いて、最後に二、三行、感想めいたことを書く、というのが、ガキどもの読書感想文の主流となった(今でも、文庫本にそれに類する解説を書く輩がいるが)。
もちろん、それではいい点をもらえるわけがない。
しかし、当時のガキどもにとっては、「学歴・出世よりも、目の前のトノサマバッタ」だったから、とにかくマス目を埋める。これが大事だったわけだ。
ガキというのは、漢字だの、分数の計算方法だのはなかなか覚えないくせに、こういう手抜きのやり方はあっという間に覚える。
おかげで、先生は、クラス全員に同じ本の感想文を書かそうものなら、うんざりするほどあらすじを読まされることになった。自業自得である。ちと違うか。
今思えば、こんな手口もあったろう。
モチモチの木を読んで
三年二組 稲本喜則
ぼくはモチモチの木を読んで、笑いました。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははほはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは(後略)」
――ねえ、アナタ。今、流したでしょう? 馬鹿がテキトーに書いていると思って。
ちゃんと読んだ? 嘘つけ。途中に一箇所、ほの字が混じっていることに気づかなかったろ。まったく。こっちは一生懸命書いてんのに。そうでもないけど。
という文章を読んだ感想を四百字詰め原稿用紙三枚に書きなさい。
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「今日の嘘八百」
嘘二百九十七 幸福の王子の一件では、その後、警察が動いたが、迷宮入りしたという。