この国の外国

 日本人=農耕民族、欧米人=狩猟民族という論の立て方があって、あまりにも馬鹿馬鹿しいと思うのだが、なぜだか廃れない。


 話を第一次産業に限ったとしても、ヨーロッパでは随分昔から農耕、牧畜が行われていたろうし、ゲーム的なものを入れても狩猟が農耕、牧畜ほど盛んだったことは、少なくともこの千年、なかったろう(千年前って、日本なら平安時代だ)。
 狩猟が民族の特徴を決めるほどのものだったとは思えない。


 日本人=農耕民族というのだって疑わしいのだが、まあ、ここでは仮にそういうことにしておきましょうか。


 農耕民族・狩猟民族、という議論はたいてい、欧米人は狩猟民族だからこうだが、日本人は農耕民族だからこうだ、という話になる。


 それじゃあ、中国、朝鮮、ベトナム、タイ、その他、もの凄くたくさんある、古くから農耕が行われてきた地域はどうなるのか、と思うのだ。
 他の農耕民族のミナサンも、日本人と同じ特質を持っているのか。漢人は、朝鮮人は、ベトナム人は、タイ人は――そこんとこ、どうなのだ? えっ?!


 ……と、コーフンすることもないのだが、農耕民族・狩猟民族という話は、日本と欧米しか見えていないことの表れではないか、と思う(しかも、その見え方はといえば、すこぶる怪しい)。


 もっと深読みすれば、随分ノしてやがる欧米に対して、我が日の本はこうだぜ、エイッ! 源氏物語だってあるんだぜ、ヤッ(読んだことないけど)! 浮世絵はゴッホだって真似したんだぜ、キエエッ(本当は別に好きってほどでもないけど)! という類の、多分に独り相撲的な対抗意識から出ているのではなかろうか。


 さらに言えば、日本では、特に何の条件もつけずにただ「外国」と言えば、八割方、九割方、ヨーロッパか北米のことを指すのだ。
 他の地域に対して、はなはだ失礼なハナシである。