におい

 横浜駅の構内にクッキーの店があって、近くを通るだけで、バニラのもの凄いにおいがする。


 甘いにおいといえば甘いにおいなのだが、あまりに強力すぎて、むせかえりそうになる。その店の近くを通るときは、息を止めることにしている。


 横浜駅でわたしの死体を見つけたら、死因は窒息死と考えていただいて、ほぼ間違いない。


 クッキーを作るのに、そんな強いにおいを出さなければいけない工程があるとは思えないから、店が客寄せのために、わざと強いにおいをまき散らしているのだろう。
 わたしからすると、においの暴力である。


 このクッキー屋は他の駅でも出くわすときがある。「うえええ、あのクッキー屋だ」とハンカチで鼻を押さえ、身を縮こめるようにして、早足で通り抜ける。まるで、ビル火災である。


 ナントカおばさんのクッキー、だかなんだか、そんな名前の店で、わたしの嫌いな「ファンシー」、「メルヘン」のにおいもする。バニラのにおいだけではないのだ。


 わたしに、やる気というものさえ備わっていたら、隣にクサヤの店を出してやるのだが。


 母親の胎内に、やる気さえ忘れてこなければ。


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「今日の嘘八百」


嘘百九 田舎の牛飼いの人によると、狂牛病が有名になってから、牛達は頑張って歩くようになったそうだ。