葉道

 生け言葉という遊びというか、行為というか、ゲージュツというか、ま、そんなものを思いついた。


 生け花というのは、身も蓋もない言い方をすれば、草花を切って、剣山に突き刺す作業だろう。
 で、まあ、そのできあがりが「ええねえ」となれば、まずまずの成功というわけだ。


 そうして、「花ではない。心を生けるのです」とかなんとか、それっぽく急所を押しておけばよい。


 では、小説だのなんだのから言葉を切り出して、生けるとどうなるか。


 まずは試しに、夏目漱石の「坊っちゃん」を生けてみる。


 親譲りの無鉄砲で、ぶうと云って汽船がとまると、威勢よく一番に飛び込んだ。
 おくれんかな、もし、は胸糞が悪るいから、その後街鉄の技手になった。
 旨かったから天麩羅を四杯平げた。だから清の墓は小日向の養源寺にある。


 まあ、たいがい、こんなところだろう。
 これを華道ならぬ、葉道と名付け、家元として上納金を取ることにする。


 次は、江戸川乱歩「孤島の鬼」。


 鉄の門に近づくと、可哀そうな実験用動物の、それは主として犬であったが、耐えられぬ悲鳴を耳にした。
「もしお父つぁんに知れたら、また箱ん中へ入れられっちまうからね」
 わたしには二つの、ちがったかたちの顔があって、わたしは悲しくて悲しくて、ワーワー泣きました。ハッハッという犬のような呼吸、一種異様の体臭、そして、ヌメヌメと滑らかな。


 言葉ではない。心を生けるのです。


 無謀ではあるけれども、森鴎外の「渋江抽斎」を生けてみる。


 五百が抽斎に帰いだ時の支度は立派であった。
 五百はこの支度の一部を贈って、枳園の妻をして面目を保たしめた。
 手代は一枚一両の平均を以て貸そうと云った。しかし五百は抗争した末に、遂に三百両を借ることが出来た。
 鰻を嗜んだ抽斎は、酒を飲むようになってから、しばしば鰻酒と云うことをした。
 渋江氏では三千坪の亀沢町の地所と邸宅とを四十五両に売った。畳一枚の値は二十四文であった。


 題をつけるなら、「算段」。


 最後に、ニッポン人に大人気、武士道をテーマにお送りする。「葉隠」より。


武士道とは死ぬことと見つけたりして。


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「今日の嘘八百」


嘘四十六 「無限連鎖講の防止に関する法律」により、茶道、華道、日本舞踊の名家の主人が根こそぎ逮捕されることになった。