子供の頃、母親がジューサーとミキサーを買ったことがある。
ジューサーは直方体をしていた。
上にある穴に、切ったリンゴとか、バナナとか、ニンジンを入れると、ウィーンブシブシブシブシビュワーッとモーター仕掛けですりつぶしてしまうのだ。
そうして、透明な容器にジュースが入る、という代物である。
子供心に、そのウィーンブシブシブシビュワーッは魅惑的で、指をつっこんだらウィーンブシブシブシブシビュワーッと指ジュースができるのか、と想像した。
いや、自己破壊衝動はあまりない。純粋にアホな想像である。
ミキサーのほうは、まあ、料理番組などでよく出てくるから、多くの人がご存じだろう。
中に果物や野菜を入れると、カッターが高速で回転し、グジャグジャにしてしまう。
買ってしばらくは、母親にこれらを使った「健康ジュース」なるものを飲まされた。
何だか、ねとっとして、そんなにうまいものではなかった。
しかし、母親も飽きたのか、やがてジューサーもミキサーも台所の収納に収まりっぱなしになってしまった。
中学・高校の頃だったか、「ぶら下がり健康器」なるものが流行したこともあった。
室内に置く高い鉄棒のようなもので、ぶら下がると健康になるのだそうだ。
理屈は知らないが、背骨がまっすぐになるとか、筋がどうのとか、そういうことではないか。
さすがにわたしは一回ぶら下がってみて馬鹿馬鹿しくなったが、母親は何日かぶら下がったらしい。やっていることはオランウータンと変わらない。
しかし、これもすぐに使われなくなった。
今でもたまに実家に帰ると、得体の知れない健康器具らしきものを新しく発見する。
そうして、それらは、すでに買い主の興味と根気の数値が下回ったことを示して、一室に固められてある。
全く、その部屋の戸には、ハリウッド映画に出てくるお墓のように、こんなプレートをかけたくなってくる。
“In memory of illusion about her health.”(彼女の健康への幻想の思い出と共に)
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「今日の嘘八百」
嘘四十七 子供は子供に読ませたい本を読みたがる。