ナポリタンの謎

 人と一緒のときはともかく、自分ひとりのときは、何となくお洒落な喫茶店を避けてしまう。
 気後れするわけではないが、どうも、座っていてしっくり来ない。


 古くさい喫茶店だと落ち着く。椅子がガタつくくらいがいい。


 古きよき喫茶店を愛している、というわけではない。味もどうでもよい。はじっこ感覚がいいのである。


 そういう喫茶店に入ると、ついナポリタンを頼んでしまうことがある。なぜだか、よくわからない。ナポリタンの謎、その1である。


 ナポリタンはスパゲッティではあるけれども、パスタではない(数学の集合の論理からするとおかしいのだろうが、わたしは数学者ではないので、かまやせぬ)。
 ここらへんの案配、わかるだろうか。わからなければ、スターバックスにでも行って、わけのわからん名前のコーヒーを飲んでいたまえ。


 思い返してみれば、うまいナポリタンというのを食ったことがない。ナポリタンの謎、その2である。


 ナポリタンを食うと、唇のまわりがケチャップでだいだい色に染まる。ハタから見ると間抜けな顔だが、それはまあ、よい。
 ナポリの人は、ナポリタンを食べるのか。そうして、唇のまわりをケチャップ(トマトソースかな?)でだいだい色に染めているのだろうか。ナポリタンの謎、その3である。


 これに類する謎に、ハンブルグの人はハンバーグをよく食べるのか、というのもある。


 わたしがガキの頃は、スパゲッティといえば、ナポリタンとミートソースであった。
 ゴルゴンゾーラもペペロンチーノ(なんてフザケた名前だ)もなかった。なに? ニョッキだと。おのれ、ぐ、愚弄いたすか!


 ナポリタン。別にうまくもないのに、つい頼んでしまう謎の食い物。
 出張したとき、名古屋駅の近くにある、どうでもいいような喫茶店で食べるのがふさわしい。


 わたしはなぜこんなことを書いているのか。ナポリタンの謎、その4である。


 しかし、この答だけはわかっている。別に書きたいことがなかったのだ。


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