志ん生を聞いてほしい

 おれは古今亭志ん生が好きで、よく昔の録音を聞く。

 志ん生は昭和二十年代から三十年代に活躍した落語家で、息子は金原亭馬生古今亭志ん朝である。驚くほどのネタ数を誇るが、人情噺より滑稽噺が得意で、まあ、この滑稽噺の破壊力ったらない。同時代の桂文楽三遊亭圓生を今聞くとさすがに古いなと思うが、志ん生の噺は今でも通用する。そういう意味では現代的というか、むしろ普遍的なのかもしれない。

 独特の口調で、文字にするとさして面白くないギャグも、志ん生が言うと無性におかしくなる。たとえば、「タコが山に寝ていて、タコ寝山(箱根山)」とか、「蛇が血を出して、へーびーちーでー」なんて、文字づらだとつまらないが、志ん生が語ると笑ってしまう。

 志ん生の凄さはいろいろあるが、ひとつ取り上げると見立ての上手さ、おかしさがある。たとえば、夫婦の口喧嘩で女房のほうが大声を出すと、「おまえね、そういう船を見送るような声を出すんじゃないよ」。船を見送るときは確かに大声になる。無性におかしい。

 同じ夫婦の口喧嘩で女房のほうが「この上げ潮のゴミ!」。そのココロは夫が出かけると廓やなんかで「引っ掛かる」から。志ん生があの口調で言うと、たまらなくおかしい。

 全身これ落語家という人で、脳溢血で半身不随になった後、あるとき口座で後ろにひっくりかえった。「お〜い、前座ぁ〜」と楽屋の前座を呼び、起こしてもらった。「えー、というわけで」と何もなかったように話し始めたときは、めちゃくちゃ受けたそうだ。そうだろうなあ。何を言ったら受けるか、瞬間に判断したんだろう。

 ともあれ、笑いの好きな人は志ん生を聞いてみてほしい。いくつかおすすめのCDを紹介する。

 

 

 

 

 おれの愛情の押し付けになってしまった。でも、聞いて後悔はしないと思う。なんせ、おかしい。