スナック・ロマン紀行

 男も三十五を過ぎれば、行きつけのスナックの一つや二つを持たねばならぬ。

 なんてことはもちろん全然ないが、まあ、行き慣れたスナックがあれば、楽しそうではある。

 しかしながら、スナックというのはハードルが高い。まず、外からほとんど中が見えない(なぜだろう)。ドアが重そうである。開けたとたんに常連客からの誰だコイツ光線を浴びそうだ。勇気をふるって中に入っても、何となく席につきにくい。席についた途端に、五十がらみの小太りのオッサンがカラオケで謳う物凄く調子の外れた吉幾三を忍の一字で耐えねばならぬかもしれぬ。

 恐るべきことである。

 人はスナックをどういうふうにして見つけるのだろうか? 知人に連れられて、というのがファーストコンタクトとしては一番ありそうだが(というか、それ以外に考えにくい)、そうすると、その知人も誰かに連れられて行ったのであろうし、その誰かも誰かに連れられて行ったのであろうし、さてさて、最初の人はどうしたのだろうか?

 スナックへ連れていってくれた全ての人をたどっていくと、サラブレッドの如く、わずか三人の先祖に行き着いたりして。

 その三人の名を、ダーレーアラビアンバイアリータークゴドルフィンアラビアンと呼ぶのである。