睡眠

「春眠暁を覚えず」という文句を、この季節になると起き抜けにやたらと思い出す。暖かくなってくると精神も体も弛緩してくるのだろうか、ありとあらゆることがどうでもいいからこのまま眠らせてくれ、と思う。枕のにおいが愛おしい。

 じゃあ、眠るのが好きなのかというと、よくわからない。朝は、事情が許せばもう一生眠っていたい、このまま植物状態がいい、と思うが、夜、酒を飲んだり本を読んだりして興が乗ってくると、眠るのが惜しく思えてくる。つまりは惰性であって、眠っているのであれ起きているのであれ、今の心地よい状態を続けたいというだけであるらしい。惰性の惰、怠惰の惰、堕落の堕、駄目の駄と、ダ方面の態度が支配的な人生を送っている。もっとも、妥協の妥というのがあるから、結局は起きたり眠ったりするのだが。

 一方で、不眠の苦しさを味わうときもある。あれは何だろう。かすかな眠気と無聊の二人攻撃というのもあるが、根本には“眠れなかったら、明日辛いだろうなあ”という心配があるように思う。将来の不安が現在を苦しめるわけで、何やら今の日本経済のごとしである。

 あまりに眠れないときは起き出して、コンビニで酒を買ってくることもある。一缶も飲めばやがて眠れる。まあ、夜中に酒を飲むのはあまりいいことではない。酒を飲むというのは未来から借金してくることであるから、こちらは財政出動のようなものだろうか。