昨日、午前中に家で書き物をしていたら、電話が鳴った。受話器をとると、女性の声で、
「稲本様のお宅ですか」
「そうですが」
「喜則様はいらっしゃいますか」
わたしは家で仕事をしているので、時々、売り込みの電話を受ける。墓だの、見合いだの、マンションだの、金融商品だの、いろんなものを持ちかけてくる。
言い回しからして、この電話もそうかと思った。返事する声が、少々ケンを含んだかもしれない。
わたしですが、と答えると、
「米朝事務所ですが」
と言う。
来週、桂米朝、ざこば、南光、小米朝という、東京ではなかなか聞けない豪華な顔ぶれの落語の会があり、そのチケットを米朝事務所に申し込んでいた。
米朝師匠は今年、満で83歳になるはずだ。東京で聞けるとは思っていなかった。
電話の女性が言う。
「もうご存じかもしれませんが、米朝が――」
「え。亡くなったんで?!」と、思わず落語のくすぐりそのままのセリフを言いそうになってしまった。
しかし、これは早とちりで、転んで骨折され、休演という連絡だった。他の者はそのまま出演しますが、チケットをどうされますか、と言う。
ホッとして、あらためて女性の声を聴くと、やわらかい大阪のイントネーションである。
米朝事務所は、米朝一門の多くが所属する事務所。もちろん、わたしには縁もゆかりもないが、おそらくスタッフは、アルバイトを含めても、そう多くはいないだろうと思う。
それが手分けして、何百人といるチケット予約者の家に電話しているのだろうか。
申し込んだ人の多くは、もちろん、米朝師匠が第一のお目当てだろうが、たとえ当日に米朝師匠は休演と知っても、この出演者達なら、文句を言う人はそうはいないだろうと思う。
それに、まあ、こういう言い方はちょっと何だが、米朝師匠、80歳を超えている。申し込むほうも、ある程度、急な休演は覚悟している。
電話の声を聞きながら、米朝事務所はきっちりしてるなあ、と思った。相手の女性の受け答えも丁重で、しっかり躾られているように感じた。事務所に好印象を覚えた。
米朝師匠のご快癒を祈ります。
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「今日の嘘八百」
嘘七百三十三 スピード社製の水着を試してみましたが、やっぱり、泳げませんでした。