ある特区の記録

 最近はどういうふうになっているのか知らないが、政府が一時期、特区のアイデアを大々的に募集していたことがある。


 特区というのは、特定の地域で法律の特例を認めるというもので、規制緩和の実験のような意味もある(あった?)のだろう。


 話がちょっと脇にそれるが、現代には、やり場に困っている、という問題が多い。


 原発をどこに建設するか、というのもあるし、産業廃棄物も不法投棄を含めていろいろ問題を起こしている。ゴミ処理場は近隣住民の反対にあうことが多いし、刑務所もそうだ。あるいはみのもんたなんかも含めていいかもしれない。


 こういうものを思いついた。


 人権侵害特区。


 どうです、エェ? ……と問われても困るだろうが、ま、とりあえずは聞いていただきたい。


 どこか、なるべく陸地から離れたところに、島を作る。


 日本の海洋開発工事の技術というのは大したものらしいから、基礎工事なり、埋め立てなりをやって、人工島を作るのだ。


 島の形ができたら、原発を建てる。電気は海底ケーブルで本土に送る。
 産業廃棄物もどんどんこの島へ送り込んでしまう。何かよくわかんないものもとりあえず放り込んでしまう。


 島での仕事をどうするかというと、極悪人を送って、あたらせる。


 別にわけのない話で、日本の刑法に、昔の遠島、島流しを復活すればよい。
 地方裁判所やなんかで、「その方、不届き至極につき、遠島を申しつける」なんていうお裁きが下るわけだ。


 島の生活環境は、当然、劣悪至極。廃棄物同士がわけのわからない化学反応を起こしてわけのわからないガスが発生するかもしれないし、原発からの放射能漏れだってあるかもしれない。


 しかし、基本的人権の侵害が認可されている島だから、そういうことは気にしない。


 島には週に一度、便船がやって来るのみ。最低限の物資と島送りの人間を残すと、行ってしまう。産業廃棄物の運搬船はやたらと来るが、コンテナごと放り出して、逃げるように去っていく。


 当然、島抜けを図る人間も出てくるだろう。見つかると「箱」とオソレられている建物へと送り込まれる。密告者は軽い労働に配置転換すると決めておけば、お互い、疑心暗鬼に陥って、島抜けの防止につながるだろう。


 アムネスナンタラ・ナンタラタラタラかなんか、その手の団体が騒ぎ出すかもしれないが、そういうときは、とりあえず、宮澤元首相あたりを出しておいて、「そういうことはあってはなりませんねえ」などとのらりくらり、かわしてもらう。


 いやはや、我ながら書いていて鬼畜だが、続きがあるのだ。


 あるときから、この島に便船も、産業廃棄物の運搬船もやって来なくなる。
 本土が戦争か大恐慌か大災害か、どうも壊滅的状況になったらしい。


 島のことはしだいに忘れ去られ、そうして、何百年か経った。


 あるとき、島の存在を古文書で知った人々が上陸する。そこで彼らが見たものは――と、この話の映画化権、どこか買わないかな。今なら三百円でいいよ。


 あれだね、こういう話っていうのは、昔、小学校で机にゴミをどんどん放り込むやつがいて、あるときそれを全部出してみたら、凄まじい状態の給食の食パンが出てきた、なんてのと同じだね。


 あるいは、中国の古い話で、蠱毒というんだったか、壺にムカデやサソリ、毒蛇、毒蜘蛛等々、毒虫をどんどん放り込んで、蓋をする。中で食い合いをして、最後に残った毒虫は凄まじい毒をたくわえている。ああいう「うええっ」と思いながらも興味を引かれる話に似ている。


 毒虫が食い合いをしている壺からは、悲しい声が聞こえるそうだ。

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「今日の嘘八百」


嘘四百五十三 今日の話は、人類の歴史上の愚行を再構成してみただけである。