「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」という三遊亭円朝作の怪談噺がある。
長ーい噺で、三遊亭円生が通しでやったものはCDで4枚にわたるとか(わたしは聞いていない)。最近、桂歌丸も通しで録音して、こっちはCD5枚。
だいわ文庫の「落語CD&DVD名盤案内」(矢野誠一、草柳俊一著、ISBN:4479300163)は、いろんな噺のあらすじ、代表的なCD、DVDを紹介している便利な本だ。
どの噺もあらすじを1ページにまとめている。その中から「真景累ヶ淵」の筋を引用してみよう。
借金を取りたてられたことから針医皆川宗悦を殺した旗本深見新左衛門は、一年後その亡霊と誤って妻を惨殺。切腹、家は改易となる。深見の長男新五郎は奉公先の女中で宗悦の次女お園を誤って殺し、逃げるが三年目に捕われ、打ち首となる。深見の次男新吉は、富本の師匠豊志賀と同棲している。豊志賀は宗悦の長女である。羽生屋の娘お久と新吉の仲を嫉妬した豊志賀は、無残な姿で死を遂げる。お久と下総羽生村に逃れた新吉は、豊志賀の霊に悩まされお久を殺す。遊び人土手の甚蔵の世話になった新吉は、村の豪家三蔵の妹お累に思われて夫婦となるが、名主惣右衛門の妾お賤と知りあい家事をかえりみなくなり、お累は自害して果てる。
誰と誰がどういう関係でどうなったか、わかります? わたしには全然わかりません。
しかも、ここまででようやくストーリーの半分だ。この後も、殺すわ殺されるわ返り討ちに遭うわ自害するわ、めぐる因果は糸車がこんがらがっちゃって、大変な騒ぎである。
それでこの噺はいったい、何を言いたいのだ! と言いたくなるのだが、それはこうやって横着にあらすじを読んでいるからだろう。
たぶん、NHK朝の連続テレビ小説なんかも、あらすじを1ページにまとめたら、こんなふうにわけがわかんなくなると思う。
歌舞伎や講談もそうだが、昔はこういう長ーい噺を何日にも分けて演じて、客を毎日引き寄せたのだろう。
「袖を払って安兵衛が千里一時虎の小走り、バラバラバラッ! と駆けつけてくる高田馬場。こなたの方より戻りし者に訊けば老人いちにん討たれしという。怒りを発した安兵衛がこれから高田馬場十八人斬りにかかる、サァ、ここからが面白い!(パパン、パン)また、明日」
なんて気を持たせて、翌日も客を引き寄せる。もし何か言いたいことがあるとしたら、たぶん、それは毎日の語りの中にあり、客はストーリーの全体を楽しむわけではなくて、目の前を次々に通り過ぎる出来事を楽しむのだと思う。
一方で、アタクシ、こういうあらすじのワケワカンナサも好きだ。もう、じゃんじゃん出来ちゃって横恋慕して誤って殺して返り討ちして自害して果ててもらいたいと思う。
あれよあれよと脳味噌が右往左往しているうちに真っシロケになって、その真っシロケ具合がなかなか楽しいのだ。
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「今日の嘘八百」
嘘四百五十四 国語の試験に「南総里見八犬伝を通して滝沢馬琴が言いたかったことを三十字以内でまとめなさい」という問題が出た。