わたしはどうも「誇る」ということが苦手なタチだ。
特に自分のしたこと、作ったものでもないのに、同じ土地で生まれ育ったからという理由だけで誇る、ということができない。
他人がそういうことをしているのも、つい白目で見がちである。
例えば、源氏物語を誇っているのを見ると、千年も前にナントカ式部が書いた、シモブクレの人々のホレタハレタを自慢されてもなあ、と思う。
あんたが書いたわけでもなかろうに、とも感じる。読んで素晴らしいと思ったなら、ただ感心しているか、せいぜい自分がどう感心したか述べれば、それでいい。
あたりを見渡すと、どうもあまりそういうことには頓着しない人が多いようで、わたしがおかしいのだろうか、とも思う。
わたしには、知りもしない人もひっくるめて「我々」とする意識が――まったくないわけでもないけれども――割と薄いようだ。そういう意識を、少々疑惑のマナザシで見てもいる。
また、根拠もなく、自尊心が強い。
なかなか他人のことを誇れないのは、そんなところに理由があるのかもしれない。
そんなこんなで、「日本の誇る」とか、「日本人の誇る」とか、そういうフレーズが出てくると、白目を剥いてしまうわけである。
日本としてどんなものが誇られているか、Googleで検索してみよう。
検索ワードは、「日本の誇る」。
・日本の誇る「ひらがな」の名品、関戸本古今和歌集
・日本の誇る唯一神・又吉イエスさん
・日本の誇る名車
・日本の誇る伝統食品 味噌
・日本の誇る侍たち
・日本の誇るプレイヤーたち（何かのゲームのサイトらしい）
・日本の誇る「たこやき」技術
・日本の誇る文化財（国宝や重文クラスの仏像や絵のこと）
・日本の誇る世界の花「椿」
・日本の誇る「ソフトパワー」（国際協力のこと）
「日本が誇る」だと、こうなった。
・日本が誇るプロダクトデザイナー、柳宗理
・日本が誇るラブロマン（源氏物語のこと）
・日本が誇る…（ウォシュレットだそうだ）
・日本が誇る大輸出産業“アニメ”
・日本が誇る世界的デザイナー（倉俣史朗のこと）
・日本が誇るクラシコ（Jリーグの鹿島対磐田のこと）
・日本が誇る匠の技
・日本が誇る自然の宝庫
・日本が誇る！世界ゴルフ殿堂入りゴルファー（岡本綾子のこと）
・日本が誇るヒーリングミュージックの重鎮にしてグラミー賞の常連アーティスト、KITARO
次は、「日本人の誇る」。
・日本人の誇る精神文化
・日本人の誇るJR新幹線
・日本人の誇る技（魚のおろし方のこと）
・日本人の誇る日本人好みの名戯曲（忠臣蔵のこと）
・日本人の誇る「JAPAN(ジャパン)」と言う道具（漆器のこと）
・日本人の誇る技術水準、専門知識
・日本人の誇るデザイナー（柳宗理のこと）
・日本人の誇る首都・東京
・日本人の誇る大切な自然遺産（原生林のこと）
「日本人」と「誇る」の間は「の」でも「が」でもイケるのが、こういうときは煩雑だね。「日本人が誇る」で検索。
・日本人が誇る豊かな知恵の数々
・日本人が誇る黒く美しい髪の女性
・日本人が誇る「和の精神」
・日本人が誇る他のどの民族にも優る美徳（謙虚に学ぶこと――誇っている人自身はあんまり謙虚じゃないね）
・古典の存在そのものを現代の日本人が誇ることに如何なる意味を見出すことができるでしょうか（源氏物語や平家物語を、存在することを自慢するのでなく、ちゃんと読み込みなさい、ということらしい）
・日本人が誇る武士道精神
・日本人が誇る宗教意識の伝統
・日本人が誇る漫画もアニメも
・日本人が誇る伝統芸術（着物のこと）
・日本人が誇るスポーツ（柔道のこと）
興味深いことに、ダブっているものは少なかった。それだけいろんなものを自慢したい、ということなのだろう。
わたしは先ほどから、白目剥きっぱなしである。
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「今日の嘘八百」
嘘百三十三 日本の誇るおれ。
