奇声

 独り言を割によく言う人と、あまり言わない人がいる。


 いっそ、「人間には二種類いる。独り言を言う者と言わない者だ」という格言を作ってもいいくらいだが、だったら何なのだ、と言われると、わたしも困る。
 だいたい、何が「いっそ」だ。自分でもよくわからない。


 独り言には、どうやら「油断」ということが関係しているようだ。
 昨日書いたオバサンぶつぶつにしても、オバサンには油断している人が多いからだと思う。


 ブルブル緊張しながらつい独り言を言ってしまう人、というのはなかなか想像しにくい。
 恐怖物のドラマで、夜の墓場を歩くとき、「何か出そうだなあ〜」、「帰りたいよ〜」などと独り言を言うパターンがあるけれども、あれは下手くそな演出だからそうなるのであって、本当に不安なとき、人は喋らない(喋れない)。


 一人暮らしだと、割に独り言が多くなる気がする。これも油断と関係しているのではないか。


 わたしも、時々、自分で独り言を言ったことに気づく。
「やりたくねえ」とか、「面倒くせえ」とか、「やめてえ」とか、「はあああ」とか、「ほええええ」とか、「へろへろへえ〜」とか、無気力方面の独り言が多いのだが、まあ、脊椎のない軟体動物みたいなものなので、これは仕方がない。


 自分でびっくりするような独り言もある。


 時々、何かの拍子に、自分のやった恥ずかしい記憶が蘇る。
 わたしは人間の基本的な部分でズッコケているので、恥ずかしく思う体験には事欠かない。


 普段は、記憶の引き出しの中にしまっているのだが、ひょいっとそれが飛び出すときがあるのだ。


「うわ〜、何やってんだよ〜、もう〜」とか、「うひょわおええええ〜」とか、思わず知らず、口から奇声が飛び出す。致命的なことに、ファルセットで、だ。


 これは恥ずかしい。いや、よみがえった記憶も恥ずかしいのだが、強烈な、80デジベルほどの奇声を人に聞かれたことも恥ずかしくなる。もう、往生する。


 本気と書いてマジと読む。稲本と書いてハジと読む。何とかしてくれ!


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「今日の嘘八百」


嘘百四 小沢一郎の表情は、糸で動かせる。