いきなりそんなこと言われても困るだろうが、「どんでん返し」の「どんでん」とは何だろうか。
広辞苑で引いてみても、「どんでん返し」はあるが「どんでん」はない。
♪ど〜んで〜ん、ム〜シムシ、か〜たつ〜む〜り〜
いや、なに、その、人間には突発的なパッションというものがあるのだ。
「どんでん」に何となく楽しげな響きが感じられるのは、太鼓の音を思わせるからだろうか。
♪どんでん、どんでん、どん、でででん。どででん、どででん、どででででん。どでんで、どんどど、どででででん。どででで、どででで、どでどど、でん。どんでん、どででん、どどでで、どでで。どででででんどん、どででん、どででで。どででん、どででん、どでどん、どででで。どででで、どんどん……
仕事なら、原稿の枚数稼ぎになるのだが。
「香典返し」といえば、香典をもらった返礼に何かを贈ることだ。では、「どんでん」ももらうもので、そのお返しが「どんでん返し」なのか。
もらったほうも困るし、返礼されたほうも困る気がする。何となく。
忍術だったか、武術だったかに「秘技・畳替えし」というのがあったと思う。あ、これでは、単に新しい畳を入れるだけか。
えーと、「畳返し」だ。
確か、斬りつけてくる相手の目の前で、畳に小刀を突き刺し、畳を持ち上げる技だったと思う。
それだけ素早い動きができるなら、さっさと逃げたほうがいいようにも思うのだが、もしかしたら、相手が畳に斬りつけ、抜けなくなったところを逆襲するという、なかなかに卑怯な手口なのかもしれない。
昔の日本にもマリーシアはあったのですよ。
まあ、しかし、いつ使えるのかわからない「秘技・畳返し」を、何度も何度も練習している忍者や武芸者の姿を想像すると、おかしいような、哀しいような、である。
「ハッ! ……うーん、刀がうまく刺さらんな。ハッ! イテテ、指、切っちゃったよ」
小屋の裏には、刺し跡だらけの畳が大量に立てかけられている。
余談が過ぎた。
と、司馬遼太郎フレーズを素早く差し挟みつつ、「どんでん返し」である。
秘技・どんでん返し
というのがあったら、どんなのだろう。
敵に追い詰められ、絶対絶命のピンチに叫ぶ。「真犯人は意外な人物だ!」――「往生際が悪いわ!」と斬られて、オシマイである。
追い詰められ、行き止まりの塀にぴたりと張り付きながら、真相を明かす。「実は、ワシは、二十年前にわけあって離ればなれになってしもうた、おまえの父なのじゃ」。
うん、これなら、「秘技・どんでん返し」の名にふさわしい。
しかし、これに引っかかる敵、というのも、相当、素直というか、間抜けなやつだ。あまり忍者や武芸者には向かないと思う。
また、「秘技・どんでん返し」を得意とする忍者やら武芸者やらというのも、相当いい加減なやつではある。要は口がうまい、というだけの話だ。