電子音

 我々は――と安易に一緒くたにするのもいかんか、わたしは電子音に囲まれて暮らしている。


 電子レンジは「ピーピーピー」と鳴り、放っておくと30秒経って、再び「ピーピーピー」と鳴る。30秒以内にドアを開けねばばまたピーピーやられるので、慌てて駆けつける。


 洗濯機は、うっかり水道の蛇口を開け忘れると、「ブー、ブー、ブー」といかにも不満そうな声をあげやがる。いやサ、確かにおれが悪かったんだけどサ。


 目覚まし時計も電子音で、朝、気持ちよく眠っているときに高周波をたっぷり混ぜた音で「ピピピピ、ピピピピ!」とやられると、正直、殺意を覚える。
 毎朝、絶対、買い換えよう、と思うのだが、昼になると面倒になってしまい、ずっと同じものを使っている。


 一番腹の立つのが炊飯器だ。飯が炊きあがると「ピーピーピーピー」と驚くような大音量を発する。そんなに騒ぐことか! と思うのだが、泣く子と機械にはかなわない。わたしには、憮然とすることしかできない。


 これらの電子音、もちろん、人の注意を引きつけるようにわざと耳障りな音にしているんだろうが、何とかならんものか、と思う。


 メロディを使う、という手もあるのかもしれないが、いかにも電子音で「♪パパラ〜パ、ピンパン、ポ〜ポパンパン!」などとやられると、それはそれで「機械のくせに何浮かれてやがる」とむかっ腹が立つ。いやいや、人間が小さくて申し訳ない。


 メロディと言えば、一時期、目覚まし時計代わりに、ミニコンポのタイマー機能を使っていたことがある。
 好きな曲をセットしておくのだが、朝気持ちよく眠っているときに鳴り出すと、これまた「あああああああああ!」と殺意を覚えた。
 好きな曲が嫌いになりそうだったので、すぐにやめた。


 ハチャトゥリアンの「剣の舞」をセットしておくとどうなるだろう。


 朝、目が覚めると同時に巻き起こる大騒動。♪タタタタタタタタタタタタタタ、トゥララッタッタ、トゥララッタッタ、トゥララッタッタ、トゥララッタッタ、タッタッタッタッタッタッタッタッタ〜。
 ――やっぱ、腹立つだろうな。「ふざけるな!」と思うだろうが、ふぜけたのは前の晩の自分なのであった。