ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ

 先日も書いたが(id:yinamoto:20070704)、わたしの中で今、降って湧いたようにヨイショがブームになっている。正確には、ヨイショというより、ヨイショの達人、古今亭志ん駒ブームだ。


 土曜日、横浜にぎわい座で志ん駒師匠を見てきた。


 マクラで、自分の師匠だった古今亭志ん生古今亭志ん朝の話をして、いろいろ世話になったという杉良太郎をヨイショして、その後で、ハイ、やってくれました、生ヨイショ。


 寄席や落語の会では、普通、最初に前座が出てきて、一席、短い噺をやる。
 前座は入門してあまり年数の経っていない人で、そうやって少しずつ高座に慣れていくわけだ。
 自分の噺が終わったら、後は楽屋などで雑用をする。


 で、志ん駒師匠だが、「ちょっと余興をやってみせましょう」と言って、楽屋に向かって、おーい、と声をかけた。
 出てきた前座さんが座布団を片づけようとすると、志ん駒師匠、「さっきの噺、ヨかったヨ」。
 わざとらしい感じでなく、さらっと言う。


 ンーム、と唸ったネ、あたしゃあ。
 そんなとこで唸ってたのは、わたしだけだろうけど。


 それから志ん駒師匠、前座さんに「名前、何ていうの?」


「歌ぶと(かぶと)です」
「かぶと! このあたりかな?」


 と言って、頭のあたりをくりくり撫でた。


 ンーーーム、とあたしゃあ、さらに唸った。


 前座さんの名前くらい、志ん駒師匠なら知っているだろう。あるいは、知りたければ、楽屋で訊けばいい。
 それを、わざと高座で噺を褒めて、さらに観客に前座さんの名前をアピールする。それも、さりげない形で。


「コイツね、三遊亭歌ぶと、って言うんです。覚えておいてやってください」と観客に向かって、直接語るやり方だってあるだろう。普通ならそうする。でも、ちょっと押しつけたふうになる。


 そうじゃなくて、前座さんに名前を訊いて、頭をくりくり撫でながら、もう一回、名前を言ってあげる。
 観客は自然に前座さんの名前を覚える。前座さんも、観客の前で褒めてもらって、名前までアピールしてもらい、うれしいだろう。


 達人ナリ。


 志ん駒師匠、その後、海上自衛隊仕込み(噺家になる前、海上自衛隊員だった)の手旗信号をやってみせて、スッと引っ込んだ。