しかしね、あたしゃあ、あえてここで念力を持ち出したい。
いや、物を浮かしたり、スプーンを曲げたりするには、強力な念力がいるよ。普通の人間はそんなもの持っていない。
しかし、人間にはわからないくらいの地道さで、棚の上の物をにじりにじりさせるくらいの念力なら、もしかしたら誰でも持っているんじゃないか。
いや、持っているんじゃないか、ではなく、持っている、と決めつけたほうがよい。なぜなら――そっちのほうが面白いからだ。
わたしはこの力を、無駄念力と名付けたい。全く望みも願いも、念じすらもしないのに、棚から物を落とす、アウト・オブ・コントロールの、しかし地味な念力。中国風に言うなら、無駄気(むだき)。
そんなもの、何の役に立つのだ、と訊かれれば、別に役には立ちません。だからこそ、無駄念力である。
わたしは、人間はもっと人間の持つ無駄な可能性に注目して、無駄に時間を過ごしてもいいのではないか、と思う。
なお、わたしの観察によると、部屋が散らかれば散らかるほど、無駄念力はよく発動するようだ。
わたしなんざ、無駄念力が強すぎて、時々、南極の氷壁が海に崩れ落ちるみたいに盛大に、いろんなものが棚や机から落ちることがある。
念力で元に戻せないところが、悔しいところである。
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「今日の嘘八百」