ドリフターズのコントづくり

 昨日の続き。


 放送作家高田文夫は、若い頃、半年ほど、ドリフターズの「8時だヨ! 全員集合」のコント作りをしていたそうだ。この話がなかなか面白い。


 行くと一番上座いかりや長介さんがいて、他にはドリフのメンバーが全員とディレクターとか作家の前川宏司とか田村隆がバーッといて、美術さんも音声さんも全員いる。(中略)
 それで毎週、ネタ作りのために、例えば、忍者という宿題が出ると、作家連中が全員、ありとあらゆるアイデアをメモって長さんに提出するんですよ。(中略)
 その、アイデアを書いたメモが十人分くらい、長さんの横にバーッとうず高く積み上がっていて、全員、長さんの顔色窺ってる。大変なんですよ。(中略)
 長さんがそのメモを順に見ていってパッと決めてくれればいいんだけど、またなかなか決めないんだ。ずーっとジーッと考えてる。


江戸前で笑いたい」(高田文夫編、中公文庫、ISBN:4122038936)より「笑いと二人旅(後編)」


 光景が目に浮かぶようだ。いかりや長介専制君主ぶりがよく出ている。もちろん、別に国会じゃないんだから、専制君主でも構わない。


 ドリフターズは音楽畑出身だけれども、いかりや長介という人はバンドマンというより、昔ながらの座長気質だったのかもしれない。


 そうかと思うと突然長さんが、「ここに忍者がいて、岩がこういう風におっこってくるっていうの出来るかな」とか言う。長さんのアイデアが現実的に出来るかどうか判断するために、美術さんも音声さんも全員待機してるから、そう聞かれると美術さんが、黒板にバーッとセットの絵を描いてさ、「こういう風に落ちてきます」。「ああ、それ、つまんねえな」って、またしばらく考えこむ。(中略)とにかく長さんの決定を全員が延々待ってると、明け方の四時頃になって、突然、「学校にしよう、次のネタ」。何十人が忍者のネタ作ってきてたのにさ、長さんのひと言で、忍者カット。駄目だコリャってな具合。
(中略)長さんのひと声で一転してワーッと教室のコントを作る……なんていうのが、毎週あるわけです。毎週延々そういう調子で徹夜する。ドリフのメンバーからスタッフまで関係者全員で。だからほんとに、『全員集合』なんですよ。


(同上)


「全員集合」は生放送だったから、失敗が怖い。ネタが決まった後も、リハーサルが待っている。


 ドリフのコントっていうのは、アドリブがまったくないんです。全部、きちんと作る。二十代から五十代までいるスタッフ全員が面白いと思うネタ作って、台詞も動きもきっちり作って、徹夜して何百回も稽古するんですよ。そのために週のうち、五日間くらいはTBSに居る。


(同上)


 いかりや長介の自伝にも、確か、同じような話が書いてあったと思う。
 この他にひと月かふた月に一度、スタジオ収録の「大爆笑」があり、映画もあり、地方の営業もあったそうだから、よくまあ、生きていられたものである。