売家と

 わたしは、自分で皮肉屋だなあと思う。


 自慢にはならない。つい皮肉を書いてしまうのだ。


 書いているときには、「うひひひひ。ザマーミロ」と人を引きずり落とす暗い喜びにうち震えるのだが、後で読み返すと、つまらないことを書いている場合が多い。


 もっとも、皮肉が一般にいかん、というわけではなくて、上手い皮肉と下手な皮肉があるのだと思う。


 川柳に、


売家(うりいえ)と唐様で書く三代目


 というのがある。これなぞ、皮肉としてよくできた川柳だと思う。


 唐様(からよう)とは、中国の書体のこと。明代のものが、江戸時代に流行ったのだそうだ。


 野暮を承知で解説すると(←これ! この「野暮を承知で」と書くのが皮肉屋なのだ)、成金も三代目ともなれば成金と呼ばれなくなる。


 爺さんの世代に成り上がったから、三代目は生まれたときからお金持ちだ。遊びもパーッと派手にできるし、風雅の道にも長けてくる。
 さらりと絵を描いてみせたり、小粋な歌も唄えたり、書画骨董に詳しく、人が感心するような書をかけたりもする。


 しかし、道楽が過ぎると家は傾く。
 三代目は、何しろ甘やかされて育っているものだから、修羅場で踏ん張ることができない。


 とうとう家を手放すに至って、戸や門に張る札に「売家」と、見事な唐様で書いてしまう。


 そうして、札の文字の立派さと滑稽さにおそらくは気づかぬまま、三代目はいずこへか立ち去ったのである。


 ――とまあ、それだけの想像を引き出すのだから、この川柳も凄ければ、わたしも凄い。そんなことはない。