奪い合いスポーツ

 脳味噌の回路が変なふうにつながっていて、相変わらず、妙なことを思いつく。


 ほとんどの球技は、ボールの奪い合いによって成り立っている。サッカー、ラグビー、テニス、バスケットボール、バレーボール、みんなそうだ。そうして、ゴールに入れるか、相手が奪い損ねれば点数になる。


 野球、ソフトボールは鬼ごっこの変形のようなスポーツだから、ちょっと違うかもしれない。しかし、バットでボールを打つ、あるいはグラブでボールをキャッチすることを「奪う」、とも捉えられる。そうならば、ある程度はボールの奪い合いの要素が入ってくる。


 では、ボールではなく、他のものを奪い合うスポーツを考えられないか。


 たとえば、唇の奪い合い、というのはどうだろう。
 チューしまくり。これが新しいスポーツにならないか、考えてみたい。


 うまくいけば、サッカー中継のように、「中盤で激しい唇の奪い合いが展開されていますねえ。どうでしょう、松木さん?」、「両チームとも、選手の動きがいいですからね。いやあ、こういう試合を見ると、僕も『やるぞ!』という気持ちになってきます」などという、少々不穏な実況も聞けるだろう。


 難しいのは、キスが唇と唇を重ねる行為だということだ。どちらが奪った側で、どちらが奪われた側なのか、そのままではわかりにくい。
 もちろん、相手の唇を自分の頬とかおでこに当てると唇を奪ったことにする、というルールにしてもよい。しかし、それではちょっとつまらない。


 やっぱり、チューはね、唇と唇ですよ、基本。


 ここは、やはり、野球やアメフトのように、攻撃側と守備側を明確に分けるべきだろう。攻撃側は自分の唇で相手の唇を奪えば、得点。守備側は逃げ切ればいい、というルールにする。


 他にも、問題はある。男性チームと男性チーム、女性チームと女性チームの対戦となると、どうもうまくない。
 いや、「ぜひそうしていただきたい」という方もいるだろうが、興行的にはややニッチな層を狙わざるを得なくなる。


 男性チーム対女性チームにして、男が女から唇を奪ったり、その逆になったり、というのがコーフン的ではあるけれども、体力差というものがある。


 男女混成チームにして、ただし、同性から唇を奪っても無得点、ということにすればいいかもしれない。
 たとえば、攻撃側の男が守備側の女から唇を奪おうとしたとき、別の男が立ちはだかって女を守る(いいね、騎士道的で)。ところが、その男を狙う女が抱きついてきて、と、これは非常に攻防が面白そうではないか。


 もうひとつの問題は――自分のことは棚に上げるが――醜男とブスがチューしても、あまり、観客が喜ばないことだ。少なくとも、唇を奪われる側はいい男か、いい女であってほしい。


 まあ、プロ化すれば、興行収入を目指して、各チームは、なるべく、いい男、いい女を揃えようとするだろう(ただし、相手側の戦意を著しく下げるために、守備要員としてケーシー高峰を入れる、という戦略もあるはずだ)。
 しかし、スポーツだから、アスリート的な視点も重要だ。そうして、優れたアスリートが必ずいい男、いい女というわけではない。


 このへんのスポーツと興行のバランスについてはよく考えてみる必要があるが、たとえば、選手ごとに得点を決めるというのはどうだろう。
 この選手の唇を奪えば3点、この選手なら2点、この選手なら1点と、試合前に登録しておくのだ。


 たとえば、アスリートとしては今イチだがいい男・いい女は3点選手にする。アスリートとして優れているが容貌はケーシー高峰というのは1点選手にする。
 そうして、ケーシー高峰に3点選手を守らせるのだ。ケーシーならたとえ唇を奪われても1点止まり。相手のモチベーションも下がるし、キスした後には観客の失笑を買って、思いっきり戦意喪失、ということも狙える。


 花形3点選手の唇が奪われる瞬間は、ゲーム的コーフンとファン心理的コーフンで、スタジアム中に悲鳴が響くはずだ。


 逆に、あえてケーシーを3点選手にする、という手もある。相手はアスリート的に能力の低い1点選手を狙ってくるだろう。確実に失点は積み上がっていくが、攻撃面に自信があれば、しのぎきることができるはずだ
 超攻撃的布陣。しかも、見せ場が多くなって、興行的にもおいしい。


 と、このように、チーム戦略が非常に高度で、かつ、コーフン的・扇情的・タカラヅカ的人気スポーツとなるはずだ。


 花形選手の唇を奪った選手なんてね、スタジアムのまわりを怒りに燃えるファンが取り囲んで、ロッカールームから出られなくなるはずだ。チーム職員に変装して脱出を図ったりとか、そういう、ピッチ外のエピソードも豊富に提供できるだろう。


 他にも、「奪い合いスポーツ」のアイデアはあるのだが、長くなるので、明日に回したいと思う。


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