「毛利元就三本の矢」という有名な話がある。
戦国武将、毛利元就の三人の息子、毛利隆元、吉川元春、小早川隆景は仲が悪かった。
そこで、元就は三人を集め、一本の矢を与えて、「折ってみよ」と命じた。簡単に折れた。次に、三本の矢を渡し、「束ねて折ってみよ」と命じた。三本一緒にすると折れない。
元就は、「お前らも同じだ。ひとりずつだと弱いが、三人力を合わせれば、三本の矢と同じように簡単には折れぬ。毛利は安泰だ」と言った。
三人は深く得心し、以後、力を合わせて毛利家を盛り立てた。
とまあ、そんな話なのだが、これ、三本の矢を渡して、息子達が折っちゃったら、どうなったのだろう。
元就はそのとき、思わず、
「あ」
と、小さく声を漏らしたんじゃないか。
そうして、なぜこんなことをさせるのか、と不審の目で見る息子達に、
「いや、その、なんだ。お前らも随分、大人になって、力がついたな。父はうれしいぞ。ハッハッハ。下がってよろしい」
などと、わけのわからないゴマカシ方をするしかなかったんじゃないか。
そういえば、黒澤明監督の「乱」に、息子が矢を折ってしまうシーンがあったような、はかない記憶も蘇ってきた。
逆に、一本の矢さえ折れなかった、というのもまずい。
顔を真っ赤にして、一本の矢を必死に折ろうとしている息子達。「おれが折る!」、「いや、おれが!」、「兄者には負けませぬぞ!」。でも、折れない。元就は、内心、ひそかに「毛利家も、こいつらの代で終わりだな」と絶望したのではないか。
まあ、息子達を呼ぶ前に、元就が家臣を使って、あらかじめ試してみた、ということも考えられる。
毛利元就という人は、権謀術数で勢力を拡大したそうだから、それぐらいのことはやったかもしれない。
そうじゃないと、リスクが大きすぎると思うのだ。
あるいは、こんなシナリオはどうだろう。
三本の矢事件の後(元就の思惑通りになった)、元春と隆景が会う。
話しているうちに、「二本だと折れるかな?」という疑問が湧いてくる。二本の矢を束ねて、折ろうとする。折れない。
「ははあ、二本でも大丈夫だ。ということは、ふたりでもやっていけるということだな。だいたい、隆元の野郎、長男だからって自分だけ毛利なのは、ズルいと思ってたんだ」
「兄者、私もです」
というわけで、ふたり揃って隆元の屋敷に討ち入りして、首をあげてしまう。
こっちのほうが、戦国っぽくて、いい気がするな。