掃除機

 昨日行った、洗濯機の少女趣味を糾弾するひとりキャンペーンの結果は、2勝4敗という残念な結果に終わった。


 正直、悔しい。魁皇の気持ちがよくわかる。
 他の家電製品にまで手を広げて、あくまで少女趣味的ネーミングを糾弾しようかとも思ったのだが、洗濯機以上に少女趣味のある製品はなさそうなので諦めた。


 しかし、このままでは引き下がれない。稲本喜則、38歳。基礎体力に不安があるとはいえ、一個のニッポン男児だ。意地というものがござる。


 というわけで、今日も続けるひとり糾弾キャンペーンだが、掃除機のパワー競争を叩きたいと思う。


 私が今使っている掃除機は、4、5年ほど前に買ったのだったか。中型のタイプなのだが、猛烈なパワーを誇っており、これまで数々のものを吸い込んできた。離れているから大丈夫だろう、と高をくくっていると、プラグだの、雑誌だの、何かのペーパーだのを引き寄せて、ひどい目にあう。
 そうして、掃除機は自分で吸い込んでおきながら、「ブオーン、ゴヘヘヘバキョキョキョ」と、のたうち回るような悲鳴をあげるのだ。実に間抜けな野郎である。


 困るのは、ペンなどの棒状のものを吸い込んだときだ。
 ホースの継ぎ目の曲がった部分に引っかかり、取るのに難渋する。まずいことに蛇腹の凹んだところにペンの先っぽがハマり、取れにくいのだ。
 蛇腹をいろんな形に曲げたり、ドライバーをいろんな角度で差し込んでみたりして、取り出そうとするのだが、10〜20分くらい費やすこともある。実にもって不毛な時間だ。


 今の掃除機の一代前のものは、大量のポストイットを吸い込んだ。蛇腹の途中で引っかかって、それ以上、ゴミを吸わなくなってしまった。
 結局、これは取ることができず、確か、そのときに今の掃除機へと買い換えた。蛇腹部分だけ注文して買えばよい、と気づいたのは買ってから後のことである。


 そりゃあまあ、無精して、片づけもせずに机の上を掃除機できれいにしてしまおうと考えた私が悪い。しかし、掃除機の無駄なパワーにも多少の問題があるのではないか。盗人にも三分の理。一寸の虫にも五分の魂である。何を書いているのか、自分でもよくわからないが。


 というわけで、掃除機のパワーはもう十分。いや、行き過ぎではないか、と思うのだが、各メーカーは今でもパワー競争を繰り広げているらしい。
 昨日と同じく、各メーカーのサイトから掃除機の売り文句を引っ張ってこよう(メーカーの順番は、2003年度の出荷台数ベースのシェアによる)。


 まず、日立H&Lから。


「お掃除のたびに、フィルターリフレッシュ! 吸っても、吸っても、強烈パワーが持続。『たつまきサイクロン』 日立かるワザクリーナー」


 ほうら、やっぱり強烈パワーと来た。
 しかし、サイクロンって、確か、竜巻のことじゃなかったか。「たつまきサイクロン」。「下穿きパンツ」みたいな表現である。
 突然ではありますが、私はここで井上陽水の「リバーサイドホテル」中の名フレーズ、「♪か〜わぞい、リバ〜サイ」を思い出したのであります。


 続いて、松下電器


「あの、ふき掃除機が強力パワーで新登場。しかもパワーが長ーく続く。」


 ふき掃除機が強力になってしまったらしい。「あの」と言われても、そもそもふき掃除機というのを初めて聞いたが、液体もパワーで吸い込んでしまうということだろうか。それとも、雑巾拭きと同じくらい、やたらめったらきれいにしてしまうということか。
 今、お寺方面では、小僧さん垂涎の的の商品なのかもしれない。


 東芝


「新開発『凄すごわざカップ』搭載で、強さ・清さ・使いやすさを変えた! 東芝クリーナー 新開発『凄わざカップ』搭載 The 強と清


 「凄わざカップ」というのはきっと、凄い技を持ったカップなのだろう。シャンパングラスの上にシャンパングラスをどんどん重ねていき、巨大な逆三角形を作る(by 上海雑伎団)のと、どっちが凄いのか。
 それはともかく、「The 強と清」というのを私は初め、なんとなく「ザ・きょうとせい」と読んでいたのだが、これ、まさか「ザ・きょうときよ」ではないだろうな。
 もしそうだとしたら、さすが洗濯機に「天使の仕上がり」という愛称をつけたツワモノ、東芝だけのことはある。


 三洋電機に行く。


「パワーが続いて、手間少なく。」


 およ。パワーという言葉はあるものの、随分、シンプルではないか。私自身はこのくらいシンプルなメッセージのほうが好きである。
 しかし、油断してはいけない。最初、左上に明朝体で書かれた上記のコピーが目に入ったが、右下に行くと、こんな名称が太々とした文字でロゴ化してあるのだ。


「ガバどりサイクロン」


 ガバどり。えげつない。もはや掃除機の範疇を超えて、解体業者かばくち打ちの領域に入っている。


 三菱電機


「強さに、おどろく。ストロングサイクロン


 ストロングサイクロン。センスの悪いレスラーが名づけたプロレス技みたいである。
 だから、強さはもう、いいっつーの。離れたところにあるペンだのネジだのまで吸い込むんだから。


 最後は、シャープ。


「最初のパワーが99%以上持続する。お手入れも簡単なシャープのクリーンサイクロン。」


 やはりパワーを売り物にはしているが、これまで見てきたなかでは、一番、控えめである。こちら側までググッと勝手に踏み込んでくる感じがなく、何というか、己の分をわきまえているふうに感じる。
 私は好感を持ちました。宣伝文句として、どれだけ機能するかは置いておいて。


 こう見てくると、現在の掃除機はパワーとともに、「サイクロン」というところがポイントになっているらしい。「サイクロン」が何かについては、特に興味がないから、追求しないけど。


 パワー競争を叩くつもりだったが、宣伝文句を書き写しているうちに、「買ってくれ!」という言葉のパワーに疲れてしまった。基礎体力への不安は、不幸にも的中してしまった。


 床につき、窓の外に見えるたった一枚残された葉をぼんやり眺めながら、私は電機メーカーの掃除機担当の方にお願いしたい。
 パワーはもういらない。チリとゴミは吸うけれど、少し離れたところにあるペンやポストイットは吸い込まない掃除機を開発していただきたい、と。


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