「経済成長」の起源

 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン著「『経済成長』の起源」を読んだ。

 

 

 二部構成になっていて、第一部は経済成長をもたらす各種要因についてのさまざまな理論の紹介、第二部は各国の歴史に理論をあてはめてみる、という構成になっている。

 第一部であがっている要因は地理、制度、文化、人口、植民地の5つ。いろいろな学者の理論を紹介し、時に比較するかたちで、おれの頭では少しわかりにくかった。しかし、第二部で実地にそれらの理論をあてはめてくれるので、各種要因の働き具合がすとんと納得いった。よくできた構成だと思う。

 二十年ほど前にジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」がベストセラーになったことがあった。ある地域が発展する(あるいは衰退する)要因を地政学の観点から説明するもので、随分と評判になり、確かピュリッツァー賞も受賞したはずだ。

 しかし、読んでみておれは食い足りない感じがした。大部の著作の割には言っていることが少なくて、地理的条件に多くを帰するのは単純すぎやしないかと思った。地理的条件はもちろん、重要な要因だろうけれども、その他の要因間の絡み合いを軽視しているように思えたのだ。いわば、複雑な物事を単純に切ってみせて、人々に「わかりやすい」と受けたのではないか。「わかりやすい」からといって「正しい」わけではもちろんない。

 その点、「『経済成長』の起源」は経済成長をもたらす複数の要因と、その要因同士の絡み合いを捉えている。複雑なものを複雑なままに説明しようと努めていて、好感を持った。特に第二部でイギリスでなぜ産業革命が起きたのかの説明はとてもわかりやすく、なるほど、そうであったか、と納得した。

 出来事のつらなりや個人のヒロイックな姿とはまた別の、世界史の見方を教えてくれる本である。