スティーブ・コール著「石油の帝国 エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー」を読んだ。
エクソンモービル(1999年にエクソンがモービルを実質的に買収し、エクソンモービルとなった)という強大な石油企業が1989年から2011年までに事故や石油産出国やアメリカの政治に対してどのように立ち回ったかを膨大な取材と事例で描き上げていく。時には石油流出事故に対応し、時にはゲリラとそれに対する弾圧に対処し、時には海賊と戦い、時には訴訟を争い、時には環境保護団体と戦い、時にはアメリカ政府の環境保護政策に立ち向かう。
原題は“Private Empire - Exonmobil and American Power”だから訳すなら「民間帝国 - エクソンモービルとアメリカの権力」といったところか。エクソンモービルは「帝国」として常に石油を求めて拡大を図る。その境界線で現地政府と対峙する。帝国内部には巨大な石油埋蔵量とマネーが蓄積される。
アメリカ政府とは微妙な関係である。ロビイングを通じて有利な政策を引き出そうとするが、エクソンモービルにはエクソンモービルの思惑があり、アメリカ政府にはアメリカ政府の思惑がある。決してズブズブの関係ではない。ある意味、エクソンモービルにとってアメリカ政府も現地政府のひとつである。
2003年にアメリカがイラクに攻め入ってイラク戦争が始まったとき、アメリカの真の狙いはイラクの石油だ、などという説をもっともらしく唱える人々がいた。この本を読むとそんな単純な話ではないことがわかる。エクソンモービルはエクソンモービルであり、アメリカ政府はアメリカ政府であり、それぞれが当然ながら独立しており、何らかの政策をめぐって時に対立し、時に妥協する。
世界は数多くのパワーが互いに引っ張り合いをして動いている複雑なネットワークだろう。単純化するとすっきり割り切れて気持ちよくなれるのかもしれないが、世の中の真の姿とは異なる。引っ張り合いをするパワーの中でも強大なもののひとつがエクソンモービルであり、そのありよう、動きようを複雑なままに描き出した本である。