昨晩、「スター・ウォーズII クローンの攻撃」（2002年）と「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」（1980年）を2本続けて見た（暇だね）。
時代の流れ、というものを感じた。
スター・ウォーズ・シリーズは、冒頭、「遠い昔、はるかかなたの銀河系で…」という決まり文句で始まる。その後、派手にファンファーレが鳴り響き、宇宙空間を手前から奥へと、事の成り行きを説明する文字が流れていく。
2002年の「クローンの攻撃」の文章はこうだ。
エピソード2 クローンの攻撃
銀河元老院を覆う暗雲…
数千の恒星系が銀河共和国からの離脱を表明したのだ
この動きの先頭に立つのはドゥークー伯爵
彼の妨害に逆らい、ジェダイ・ナイトは限りある人数で銀河系の平和と秩序を保たねばならなかった
映画は、いきなり要人への爆破テロで始まる。
国連総会を思わせる銀河元老院が、各国の思惑と駆け引きのせいで機能不全に陥っている。その中で、ジェダイ（アメリカ政府？）が銀河の平和のために孤軍奮闘している、というオハナシだ。
冒頭の、事の成り行きテキストを、今の時代背景に沿って、書き換えてみよう。
エピソード2 クローンの攻撃
国連を覆う暗雲…
いくつもの国々が国際社会からの離脱を表明したのだ
この動きの先頭に立つのはドゥークー伯爵
彼の妨害に逆らい、アメリカは限りある予算で世界の平和と秩序を保たねばならなかった
オハナシのほうも、銀河元老院の議長が実は悪の親玉だった、と暗示するシーンがあったりして、アメリカでは不人気らしいアナン事務総長への当てこすり、と深読みすることもできる。
一方、「帝国の逆襲」が公開された1980年には、まだソ連が健在だった。ソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガン大統領が、最初の大統領選挙を戦った年だ。
映画は、ナチス・ドイツ風の帝国軍（ああいう悪役側はたいていナチスのイメージだね）に自由と民主主義を信奉する共和国の生き残りが挑む、というオハナシ。
冒頭の事の成り行きテキストはこうなっている。
エピソードV 帝国の逆襲
反乱軍にとって暗黒の時代だった
帝国軍は反乱軍にデス・スターを破壊されながらも、反乱軍を追いつめ、秘密基地から撤退を余儀なくさせた
恐怖の帝国軍艦隊から逃れたルーク・スカイウォーカー率いる自由の戦士たちは、辺境の氷の惑星ホスに新たな秘密基地を建設した
若きスカイウォーカーを捜すことに執念を燃やすダース・ベイダーは無数の探査ドロイドを宇宙のかなたへと放ったのだった…
時代だなあ、と思う。
今、アメリカの映画が強大な敵の帝国を描いても、時代の雰囲気とリンクはしないだろう。何しろ、アメリカ自体が唯一の超大国なのだから。
ソ連と大規模核攻撃の恐怖（デス・スターとかね）あっての、スター・ウォーズ1作目〜3作目だったのだと思う。
今、この、事の成り行きテキストをうまく当てはめられるのは、むしろ、アメリカ政府が目の敵にしているイスラム過激派のほうだと思う。
エピソードV 米国の逆襲
真のイスラムにとって暗黒の時代だった
米国はアルカイーダにペンタゴンを破壊されながらも、アルカイーダを追いつめ、秘密基地から撤退を余儀なくさせた
恐怖の米軍から逃れたオサマ・ビンラディン率いるイスラムの戦士たちは、辺境の国に新たな秘密基地を建設した
ビンラディンを捜すことに執念を燃やすラムズフェルド国防長官は無数の情報員を中東各地へと放ったのだった…
ジョージ・ルーカスは、別にスター・ウォーズを通じて、政治的主張をしたいわけではないだろう。
スター・ウォーズは基本的に遊園地映画であり、観客をノセるために、道具立てとして、時事的な構図を利用している、ということなのだと思う。
ところで、スター・ウォーズの宇宙空間には、実際にああいう事の成り行きテキストが飛び交っているのだろうか。
宇宙船で飛んでいて、
「船長！ 遠くのほうに、大量の金色の物体が見えます。小惑星群にしては平べったいし……随分、規則正しく並んでいるようです」
「んー？ あー、エピソードのテキストだろ。ここいらを飛んでいるなら、エピソード2か3あたりじゃないかな」
なんてね。
宇宙で艦隊がドンパチやっている中に、たまたまあの文字列がやってきたら、笑える。
右から「エピソード2 クローンの攻撃」、左から「エピソードV 帝国の逆襲」、下から「エピソード1 ファントム・メナス」と、各エピソードがぶつかってきて、戦場は大混乱。戦艦がドッカン、ドッカン、テキストにやっつけられるのだ。
シリーズの最後は、いっそ、それで締めてほしい。ずーっとスター・ウォーズ・シリーズを見てきたファンは、怒るだろうなあ。
（5月25日付記：エピソード2については、銀河元老院を米国議会〈あるいはドイツのワイマール憲法下の議会〉、軍事面での強大な権力を手にした議長を9.11後のブッシュ大統領〈あるいはヒトラー〉とする意見もあるようだ。ルーカスは共和党嫌いらしいし。そっちのほうがうまく当てはまるように思えてきた）
