日本画と動物と距離

 おれは絵が好きで、洋画も日本画も見る。

 日本画は言うまでもなく、中国からの影響を非常に受けている。中国画をモデルにしつつ、徐々に独特な画風、画題を発展させていったというのがざっくりした日本画の流れだと思う。日本は昔からガラパゴスだったのだ。

 中国からの影響が強いものだから、日本にはいない動物もよく取り上げられる。たとえば、虎は日本にはいないが、画題として描かれる。そして、日本における虎というのがしばしば:

伊藤若冲「虎図」

円山応挙「猛虎図」

冨田渓仙「松虎図」

 

 猫と化してしまうのである。「虎の猫化問題」とおれは呼んでいる。

 中国画についてはよく知らないが、ここまで猫化した虎が描かれることはあまりないのではないか。中国には本物の虎がいるし、画家が直接虎を見かけることはないにしても、現実の猛獣として同じ土地(といっても広大な中国だが)にいる。

 象はどうか。

俵屋宗達「白象図」

伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」

 伊藤若冲の象は故意にデフォルメしているのだろうけれども、それにしても、である。まあ、象を見たことがないんだからしょうがない(もっとも、確か、徳川吉宗の時代に一度象が来日(?)して、長崎から江戸まで行進したと聞いたことがある)。

 白象が多いのは、神霊的なイメージがあるからか。そういえば、普賢菩薩が乗っているのも白象だ。

 変形も甚だしいのは獅子(ライオン)である。

狩野永徳「唐獅子図屏風」

鵜川常雲「唐獅子図屏風」

 インド人やアフリカ人が見たら、「これは何だ!?」と笑うのではないか。ライオンはインドからアフリカにかけて生息するが、おそらく画題として中国に入ったあたりで犬と混淆し、日本に入ってさらなる変貌を遂げたのだと思う。まあ、江戸時代以前の日本では獅子というのは実在の動物というより、伝説上の動物みたいなものだろう。

 思うに、こんな公式が成り立つのではないか。

変貌度 = 実在する土地からの距離 × n

(nは正の定数)

 動物の変貌度は距離に比例すると思うのだ。

 絵の伝言ゲームみたいなものである。