歴史をさかのぼる

 おれはあんまり最近の音楽を知らなくて、もっぱら80年代以前の曲を聴いている。ロックでは70年代あたりが中心だから、80年代の音楽なんて、おれにとっては“割と新しい”感じである。だから、二十代前半の人と話をしていて、ふと“あれ、こいつらにとってポリスって生まれる前のバンドなのか”と思うと、不思議な感じがする。今の二十歳の人にとってのポリスやカルチャークラブは、おれ(1966年生まれ)にとってのリトル・リチャードやファッツ・ドミノと同じような距離感なのだろうか。
 などということを考えていくと、歴史というのは古いように思えるものでも案外と近いところにあるのかもしれない。
 先日、人と話していて、歴史を逆行してみるとどうなるか、という思考実験の話になった。例えば、おれは1966年(昭和41年。中国で文化大革命が起き、ビートルズが来日した年だ)に生まれて、なんやかやとやり過ごして2013年(平成25年)の今を46歳の美男子として生きているが、1966年から逆方向に年をとっていくとどうなるだろうか。
 10歳は昭和31年である。ソ連でフルシチョフスターリン批判し、カストロキューバに上陸し、プロ野球西鉄が初の日本一に輝いた年だそうである。
 20歳は昭和21年である。昭和41年に生まれて、逆行しつつ成人すると、終戦直後の食料不足、農地改革に第一次吉田内閣に日本国憲法公布なのである。終戦後のあれやこれやなんて随分昔のことのように思っていたが、せいぜいおれが生まれてから成人するくらいの頃の出来事なんである。
 30歳は昭和11年である。二二六事件に阿部定事件だそうだ。どひゃー。
 40歳は昭和元年である。蒋介石が北伐を開始。大正天皇崩御日本放送協会ができて、豊田佐吉豊田自動織機製作所を設立、だそうだ。
 46歳は大正9年である。国際連盟が設立、ヴェルサイユ条約発効、日本では第一次世界大戦の戦後恐慌が起きた。生まれてから現在までと同じだけの時間をさかのぼると、第一次世界大戦にまで手が届くのである。
 また、逆に見るとこうも言える。大正9年第一次世界大戦の戦後恐慌のさなかに生まれた人は6歳で大正から昭和へと時代が変わり、16歳で二二六事件の戒厳令のラジオ放送を聞き、25歳で終戦を迎え、36歳頃に西鉄が巨人を下すのをテレビで見、46歳、今のおれと同じ年齢でビートルズなるものがイギリスから来日して大騒ぎになったのを見聞きした。
 こうやって見てくると、歴史というのは随分と変遷するものだし、人が生きている時間というのは案外と長いものなんだな、と思う。
 面白いので、暇な方は自分の生年でやってみてください。ミソは、自分の年齢の2倍の時間をたどれるので、年齢が高いほど飛距離が伸び、古い事柄を身近に感じ取れることだ。年をとればとるほど楽しめるわけですね。60歳の人なんて、19世紀(徳川慶喜やら西郷隆盛やらビクトリア女王やらがいた世紀)にまで突入できますヨ。