欧文で歌う

 前に何度も書いたおぼえがあるのだが、他に特に書くネタもないので、ひとつ。

 CDショップに行くと、よく、レコード会社がプッシュしている曲やミュージシャンのポスターが貼ってあり、CDが店頭にならべてある。日本のポップスには相変わらず欧文表記のものが多く、目にするといつもひっかかりをおぼえる。そのひっかかりにはいくつかある。

 黒船以来のヤラレテイル感丸出し、というせいもある。日本で生まれ育つと、商品名であれ、ちょっとしたフレーズであれ、欧文表記してあるだけで洗練度30%アップと自動的に感じるようになってしまう。でもって、おれはそう感じてしまったことが悔しくて「負けてたまるか、ニッポン男児」なんぞと攘夷感情をおぼえてしまうわけだが、まあ、これはいささかねじくれた根性のせいではある。

 攘夷感情は置いておいても、いささか安直ではないかと思う。欧文表記にさえすれば洗練度30%アップ。実践的にはたしかにそうなのだが、そんな安直なことを繰り返していてよいのであろうか。あれ、いいのかな。いやいやしかし、と揺れうごく乙女ごころなのである(男だけど)。欧文表記したものというのは妙につるんとして薄っぺらい。奥行きがない。まあ、その奥行きのなさがしがらみのなさに感じられてよいのかもしれないが、人の心のなかで何かをうごめかせる表現としてはハテどうなのか、と思う。

 でもって、これは音楽方面についてなのだが、曲名が欧文表記の曲は、十中八九サビでその欧文の言葉を歌うのだろう。たとえば、「Lovin' You」という曲なら、おそらく、サビで、「♪Lovin' you...Woh〜」かなんか、そんな調子でやらかすんじゃないかと思う。英語もロクにできねえくせに、という悪口はまあ、置いておいて(安心しろ、おれもできない)、そうやって歌う日本の歌の歌詞というのは、欧文表記してあっても実質的には外来語レベルであろう。使える言葉の範囲はかなり限られている。

 言葉の発するニュアンスも、「英語です」「フランス語です」というニュアンスがまず最初に立ち、意味するところはだいぶそっちに持っていかれてしまう。たとえば、「♪Ooh〜、domestic violence〜」などと歌っても、たぶん、たいがいの人は聞き流してしまうだろう。家庭内暴力についてなのに。目の周りを腫らしながらネギを刻んでいるかもしれないのに。サビというのは、たいていその歌の一番いいところ、おいしいところで、強い力を放つチャンスがあるのに、「英語ですぅ〜、洗練なんですぅ〜」で終わってしまうのは、なんだかもったいない。

 もうひとつ言うと、先の安直さや、「英語もロクにできないくせに」という悪口に通じるのだが、サビの一部だけが英語の歌は、聞いていてこっちが気恥ずかしくなることがある。作っている人には、「ちょっと離れて見てご覧よ」と言いたくなる。……な? そいつをテレっていうんだよ。