物事をいきなりダメにしてしまう魔法の言葉というのがある。
例えば、「F1グランプリ」、「共産党宣言」、「ミシュランガイド東京版」。
これらに「ちびっこ」という言葉をつけるだけで、あら不思議。いきなりダメ化してしまうのだ。
以前はそうした魔法の言葉を見つけては、よくここのページで遊んでいた。最近はやらなくなったが、年の初めだ。ひさしぶりに遊んでみようかと思う。
使うのは、「とりあえず」。
「とりあえず、ビール」のアレです。ハイ。
世の中には「とりあえず」をなるべく使わないほうがいい人達がいて、例えば、悪と戦うヒーローの人々というのがそうだ。
何だかよくわからないが強そうなクルマに乗り込んで、
「特殊戦隊ボボレンジャー、とりあえず出動!」
なんていうのは、やはり勢いがつかなくていけない。
「とりあえず、必殺ボボビーム!」などと言いながら、敵を倒すのもよくない。
やられたほうは無念だろうし、見ている子ども達も割り切れない気持ちになるはずだ。
全国のよい子のみんな! そういう感覚を隔靴掻痒と呼ぶんだよ。
NHKが野村萬斎主演でやっている鞍馬天狗も、「とりあえず」を使わないほうがいいタイプである。
白々、明るくなってきた山際を角兵衛獅子の子どもとふたりで眺めながら、
「杉作、とりあえず日本の夜明けは近い」
というのでは、どうも投げ遣りである。ま、ある意味、正しい歴史認識だったのかもしれないが。
日本海海戦も「とりあえず」を使ってはいけない。ロシアのバルチック艦隊を発見して、
「皇国の興廃この一戦にあり。各員とりあえず奮励努力せよ」
東郷平八郎司令長官もいささか逃げ腰なのである(シンパシーを感じるぜ)。
裁判の判決というのも、あまり「とりあえず」を混ぜないほうがよいようである。
開廷から約1時間半経った1月7日午後3時30分、東京地裁の第五法廷に佐藤実裁判長の声が重く響き渡った。
「主文、被告人をとりあえず死刑に処する」
とりあえず、以上。
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「今日の嘘八百」
嘘六百二十八 2007年に最も無常感を表現した本は、安部晋三著「美しい国へ」だったという。