酒の話・続

 酒の話の続き。


 こんな小咄がある。


 ある人が酒屋の前まで来ると、ばーっと駆けて通った。


「どうしたんです?」
「いやあ、私ほど酒に弱い者はありません。酒屋の前で匂いを嗅いだだけで、酔っぱらってしまいました」


 と、その息で、聞いている人のほうが真っ赤になってしまった。


 聞いている人のほうがもっと酒に弱かったわけである。


 実際、お酒を全く飲めない人というのは結構いて、肝臓がアルコールを分解する酵素を作らないらしい。うろ覚えだが、日本では十人に一人くらい、と聞いた覚えがある。
 これはもう、生まれつき、そういう体質なんだから、どうにもならない。アルコール分解酵素を後天的に作れるようになることはないのだそうだ。


 よく「酒は全く飲めなかったんですが、大学の○○部(体育会が多い)で鍛えられました」なんていう人がいる。
 こういう人はアルコール分解酵素は作れて、たぶん、酒に慣れていなかっただけなんだろうと思う。


 アルコール分解酵素を作らない人は、いくら“鍛えて”も(嫌な言葉だ)酒を飲めるようにはならないらしい。
 大学生のコンパなんかに多そうだが、飲めない人に酒を強引に飲ませるのは、毒を無理矢理飲ませているわけで、暴力行為だ。ゲスだし、第一、つまらないから、本当にやめたほうがいいと思う。


 旅行に行くというので、新幹線や特急に乗って、駅から動き出した瞬間にビールやカップ酒を開けるのは、なかなか楽しいものだ。


 しかし、あれ、隣の人が飲めない人だったら、どう感じているのか。


「うわっち。変に酔っぱらわれると嫌だなあ」くらいならまだしも、酒の匂いで下手すると気分が悪くなったりするのだろうか。
 もしそうなら、誠に申し訳ないことをしている。


 いずれ、長距離列車に、禁煙車両と同じように、禁酒車両ができるかもしれない。
 酒を飲める人でも、電車の中の酔っぱらいは嫌だろうから、禁酒車両を希望する人は案外、多いのではないか。


 煙草については、ここ十数年で禁煙ゾーンが非常な早さで広まった。今ではむしろ煙草を吸える場所のほうが少ないくらいだ。


 禁酒車両も、案外な早さで広まるかもしれない。


 しかし、そうすると、


 禁酒で禁煙
 禁酒だけど喫煙
 禁煙だけど飲酒
 飲酒するし喫煙


 と、4つの車両を用意しなければいけないから、大変そうだ。


 鉄道会社としては切符を売るとき、ややこしいだろう。
 それは大変だというので、禁欲車両とそうでない車両の二種類になるかもしれない。


「ハイ、東京から新大阪ですね。禁欲ですか、放埒ですか」


 なんて、緑の窓口で訊かれたりして。


 禁欲車両のほうは冬の永平寺の如し。一方、放埒車両では飲めや歌えやの大騒ぎ。そのうち全裸で隣の人に抱きつくやつまで現れる始末で――ってことはさすがにないか。

                • -


「今日の嘘八百」


嘘五百二十七 坂田金時は、幼少時、熊にまたがり馬の稽古をしたため、ひどいガニ股になってしまったという。