タクシードライバー

 レンタルビデオ屋で、映画「タクシードライバー」のDVDが目にとまった。そばのプレートに、店員によるのだろう、推薦の言葉が手書きのマジックで書いてあった。


ロバート・デ・ニーロのカッコよさとジョディ・フォスターの演技力に〜」という言葉があった。
 ジョディ・フォスターの演技力はいいとして、ロバート・デ・ニーロのカッコよさ、のほうが引っかかった。


 確かに、「タクシードライバー」の中でロバート・デ・ニーロ演じる主人公がカッコよく見えるときはある。
 しかし、少し引いて見ると、カッコいいだけではすまない重たいものが、あの主人公の行動にはある。


 以下、筋書きにふれるので、まだ見ていない方はご注意。まあ、「タクシードライバー」は筋書きを知ったからといって、つまらなくなる映画ではないけれども。


タクシードライバー」の主人公、トラヴィスは内向的で、孤独な男。女との付き合い方がよくわからず、知り合って間もない女を、いつも自分が行くポルノ映画館に連れて行って、ふられてしまう。


 鬱積したトラヴィスは、銃の訓練をし、大統領候補の暗殺を図るが、失敗する。
 代わりに、家出した少女(ジョディ・フォスター)に売春させていたヒモを殺し、少女を救い出す。トラヴィスは英雄としてメディアでもてはやされる、とまあ、そんなストーリーだ。


タクシードライバー」が重い理由は、トラヴィスの行動が単純な正義に基いていないところにある。
 その証拠に、ヒモを撃ち殺すときのトラヴィスの表情は、イッちゃって笑っている。


 内向的な人間が自分は特別な存在のはずだ、と妄想をふくらませていった結果、ヒモを殺すに到る。それが「タクシードライバー」の骨子だ。トラヴィスには英雄願望がある。
 ごく自己中心的な理由、妄想に基づいてトラヴィスは人を殺す。むしろ、社会的には危険な存在だ。


 救い出された少女がその後、幸せになれたかどうかも怪しい。
 彼女がどういう家庭環境で育ったのかはよくわからないが、売春しながらヒモと暮らしているほうが幸せと感じさせる描写もある。


 以上は、わたしの意見でも何でもなく、ほとんどが「映画の見方がわかる本」(町山智浩著、洋泉社ISBN:4896916603)からの受け売りだ。