絵の計算

 などと書きながら、頭の遊びを続けるのだが、北斎という人は、こういう線の仕掛けを多用したらしい。


 次の絵は渦ではなく、円がテーマ。富士山があるから、絵が決まる。


「富嶽三十六景 尾州不二見原」(江戸東京博物館)


 次の絵は直角三角形。


「富嶽三十六景 甲州石班沢」(江戸東京博物館)


 カーブの響き合いがきれいな絵。線の離合集散が、バッハの室内楽か何かみたいだ。


「富嶽三十六景 駿州江尻」(江戸東京博物館)


 次のは屋根と雲が逆さ富士になっている。


「富嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図」(江戸東京博物館)


 塩鮭のヒレとネズミのしっぽが美しいカーブでつながる絵。


「肉筆画帖 塩鮭と鼠」(北斎館)


 北斎の線に沿わされて、わけのわからんことになっている鶏の皆さん。


「群鶏」(東京国立博物館)


 まあ、ここまで来ると、線の仕掛けを絵に忍ばせるというより、線の面白みに画題(ここではシャモ)を沿わせて楽しませているのだろうけど。


 線の仕掛けを入れること自体は北斎の発明でも何でもないだろうけれども、北斎は巧みに用いて、自分の絵を強いものにした、ということだと思う。


 北斎の絵はアクが強い。もしかしたら、人物など、絵の主題になってもおかしくないモチーフが、北斎の構図に、時に強引に奉仕させられているからかもしれない。


 きっと因業なクソジジイだったに違いない。タイムマシンがあったら、ぜひ会ってみたい人である。


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「今日の嘘八百」


嘘二百八十二 北斎は、困ったら富士山を入れておけば何とかなる、と考えていたフシがある。