日本語の誇張

 逆に、「自分(の行動)をとがめるとき」や「相手(の行動)を持ち上げるとき」には、誇張した表現をよく使う。


 例えば、「ありがとう」の元は「有り難い」だが、実際にはそんなに有ることが難い(=珍しい)場合じゃなくても、使う。


「あ、忙しかったら、おれのほうの仕事、後でもいいから」
「有り難い」


 なんて、本当はさほど有り難いケースではない(ややこしいな)。


 政治家がよく「我、万死に値する」の類の、大げさな表現を使う。万死なんていらない、一回死んでくれればそれでいい、と思うのだが、それは置いておく。


 これは自分をとがめるための誇張表現だ。だから、


「我、少しは万死に値する」


 なんてふうに弱めてはいけない。いや、弱めるのは勝手だが、馬鹿に見られるだけである。


 相手に対しては、例えば、「ご列席を賜れば、望外の喜びに存じます」などと言う。


 本当に「望みの外」なんだったら、そうヌケヌケと書けるものか、と思うのだが、まあ、誇張の表現だ。本当はそんなにウレシくもないのである。