ええーっ

 わたしは普段、ホトケの稲本(死体になっているわけではない)と呼ばれるほど穏やかな人柄なのだが、時として、異様に暴力的になることがある。


 昨日、バラエティ番組などで出演者の発言の一部を切り出すテロップについて書いた。
 あれもあまり好きではないのだが、もっと嫌いなものがある。


 スタジオに集められた観客の娘どもの「ええーっ?!」という、意外や非難や不満を表す声だ。
 わざとらしいにも程がある。


 もちろん、あれはあらかじめ言い含められており、スタッフの合図でいっせいに発するのだろう。


 耳にすると「なめとんのか!」と、思わずテレビにパイを投げつけてしまう。
 そうして、我にかえり、テレビからバイの残骸をぬぐうときの惨めさ。テレビのスピーカーから響く娘どもの爆笑が、嘲笑に聞こえる。
 ふと「田舎に帰ろうか……」と思うのは、こういうときである。


 そもそも、なぜあれは娘どもの明るい(いささかパーな)「ええーっ?!」でなければならぬのか。
 たまには、今いち冴えない青春を送っている田舎の男子高校生達の野太い「え゛え゛ーっ?!」や、人生の先達であるジイさん達の、微妙な間のある「……えっ」という、思わず心配になってしまう声や、統制のとれないオバチャン達の「(ここで言うんだって)(え、何? 山本さん)(ほら、さっきあの若い人が言ってた)(あ。えーと)(「ええっ」って言うのよ、「ええっ」って)(あ、そっか。誰に合わせればいいの?)(あの人、あの人。あの髪の変な子)(あの子、鈴木さんとこの息子さんにちょっと似てるわね。あはは)(あら、ホントね。あははは)(そんなこといいから。やりましょう)(そうね。やりましょう)えええっ(これでいいかしら?)」という2、3分遅れるうえに、発した後、とまどいの笑いが漏れる声だっていいではないか。


 あの娘どもの「ええーっ?!」を聞くと、わたしは馬鹿にされているような、やるせないような、何とも表現しにくい気分になる。
 何なのだろうか、あのぬるい馴れ合いの空気の中で発せられる「ええーっ?!」は。


 とか何とか言いながら、自分も時折、そういう番組を見ているのである。
 今、思わず自分に投げつけてしまったパイの残骸をぬぐっております。


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「今日の嘘八百」


嘘二百三十九 ジイさんとバアさんのそれを描いた浮世絵を秋画と呼ぶ。