相撲の技

 格闘技というのは、多くが、元々は実戦のための技を元にしているのだろう。


 でもって、練習を重ね、技を整理し改良していくうちに、「どうもこんなにしょっちゅう骨折したり、内臓が破裂したり、金玉がつぶれたりしていてはかなわん。今じゃ、ヨレヨレの我々より、何もしない人のほうが強いではないか」などということになり、ルールが整備されていったのだと思う。


 しかし、そういうのとはちょっと違うふうに発展したらしい格闘技もあって、例えば、相撲がそうだ。


 今、我々が目にする大相撲は、実戦の役に立たない技でいっぱいである。


 投げ技の中には、まあ、役に立ちそうなものもあるが、上手投げ、下手投げなんかは、「まわしをつかむ」、「相手と組む」という前提で成り立っているものだろう。


 例えば、町でケンカが始まったとする。
「てめえ、このヤロー!」、「なんだ、バカヤロー!」と売り買いが成立した直後に、いきなりふたりがガシッと右四つに組んだら――息はぴったりだが――随分、奇妙なものだろう。


 はたき込みや蹴たぐりは、相手の出方次第では実戦で役に立ちそうだ。もっとも、せいぜい、補助の技だろうけれども。


 突っ張りというのはどうなのか。
 それなりに効果はありそうな気もする。
 しかし、ストリートファイトでいきなりカッポン、カッポンと突っ張りをかましてくるヤツがいたら、まあ、驚くだろうが、その後、まわりは全員、笑い転げるのではないか。


 もっと面妖なのが寄り切りで、これ、いったい、どういう状況で使えばいいのか。
 崖っぷちで決闘、とか、そういう特殊な場でだろうか。しかし、大相撲を見ると、八割方、自分も一緒に崖下に落ちていきそうである。


 互いのベルトをつかんだまま、胸を合わせるようにして、崖から「わーっ」と落ちていくふたり。


 放っておきましょう。


 相撲は、昔々は武術で、蹴ったり殴ったりしてもよかったらしい(相撲の「撲」は撲殺の「撲」だ)。


 土俵の原型ができたのが、安土桃山か、江戸の頃。一説には、織田信長が考案したとも言うが、さてどうなのか。


 江戸時代になると、力士のひいきが手を出して勝負の邪魔をする、客とやたらにケンカになるというので、「入ってはイケマセン」、「出てはイケマセン」というラインを引いた。これが土俵になったのだそうだ。


 寄り切りというのは、知らないが、土俵があって初めて生まれた決まり手ではないか。突っ張りも、押し出しがあるからこそ有効になる技だ。


 土俵というものができて、相撲はそれまでとは全然違う格闘技に変質したのではないか――と、例によって、テキトーな思いつきを書き飛ばして、本日の結びの一番。


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「今日の嘘八百」


嘘二百二十五 2時間ドラマで、最後、全員が正装して崖に集まるのは、犯人の長ーい告白がドラマチックに見える場が、他にないからである。