大相撲で感心するのは、数年ごとに大騒ぎを起こしては沈静化し、忘れた頃にまた大騒ぎを起こすことだ。
日馬富士の貴ノ岩への暴行事件に端を発し、貴乃花が日本相撲協会を退職するまでの流れはある意味、見事だった。あれよあれよ、という間に思いがけぬ方向へと事態が動きながら、日本の相撲のいろいろな側面をざっくりした斬り傷のように見せてくれた。
中でも圧巻は、日本相撲協会が突如繰り出した「親方は五つの一門のいずれかに所属しなければならない」という規定だ。その結果、貴乃花親方は否が応でも日本相撲協会を退職せざるを得なくなった。
英語で「一門」を何と呼ぶかというと、family、ファミリーだそうだ。もうひとつ、clan、クランという言い方もあるが、これは一般には馴染みのない言葉だろう。
日本相撲協会の規定を英語に読み替えると、「ボスは五つのファミリーのいずれかに所属しなければならない」。まるでゴッドファーザーの世界である。
コッポラ監督の70年代の映画「ゴッドファーザー」にはいくつも印象的なシーンがあったが、そのひとつはニューヨークの・フィアの五大ファミリーが一堂に会する会議だった。
映画「ゴッドファーザー」の公開当時(1972年)、アメリカの一般市民はこのようなマフィアの存在を信じられなかったとも聞く。大相撲の「一門」なるものも、貴乃花親方の退職騒動が起きるまで日本の一般市民がほとんど知らないものだった。
大相撲の五代ファミリーとは:
・ニショノセキ・ファミリー
・デワノウミ・ファミリー
・トキツカゼ・ファミリー
・タカサゴ・ファミリー
・イセガハマ・ファミリー
互選による束ね役(現代風に理事長と呼ばれる)には八角ボス(あだ名はオクタゴン)が選ばれた。
果たしてうまく五大ファミリーを束ねられるか。八角親方 a.k.a. オクタゴン
大相撲の五大ファミリー会議、通称「理事会」。
Wikipediaで大相撲の「一門」の項を見ると、こんなことが書いてある。
公益財団法人に改組された現在でも日本相撲協会の人事、とりわけ理事の選出は一門の枠組みで決定されている。
(中略)
協会からは毎年、各一門へ助成金が支給され、さらに一門の責任者が所属する各部屋に分配している。
暴力団の「一家」の仕組みを思わせる(もっとも、相手を張ったり、突いたり、投げたり、はたいたり、と大相撲は文字通り暴力の団ではある)。大相撲は擬似的な大家族制度だから、ヤクザの組織や問題解決方法に似たところがあるのだろう。「親方」も「親分」もファミリーの「親」である。
日本相撲協会については、あんな問題ばかり起こす団体を公益財団法人にしておいていいのか、という議論もあると聞く。まあ、前近代の仕組みを現代の法律システムに当てはめようとするから、どうしたって無理が出る。よくも悪くも、お相撲さんの世界は現代のファンタジーだ。
かつての大ボス、北の湖親方