昭和三十年代の喜劇映画

 ここのところ、昭和三十年代の日本の喜劇映画を割によく見ている。


 森繁久弥の社長シリーズ、植木等の無責任もの、渥美清の「拝啓天皇陛下様」(正・続)、それから昭和四十年代に入るけれども、初期の「男はつらいよ」といったところである。


 どれも面白いし、手触りが違う。


 社長シリーズはいかにもお金をかけずにさっさと作っている感じだ。


 どの作品も「えー、ここで終わんの?」という中途半端な終わり方をする。何だか、突然、宙に放り出されたような気になる。
 セリフもかなりがアドリブだそうで、しかし、そういうお手軽ぶりが出演者の活気につながっていると思う。


 植木等の、特に「ニッポン無責任時代」は突き抜けて楽しい。


 日本には珍しいミュージカル映画でもある。
 もっとも、歌うのは植木等だけ。歌もミュージカルと呼ぶには少なすぎるが、しかし、歌のシーンの作り方は間違いなくミュージカルである。


 他に、日本のミュージカル映画の成功作というのは、ほとんど思い浮かばない。
 舞台ではいろいろミュージカルが上演されているのに、不思議といえば不思議だ。


 ミュージカルというものが、日本に本当の意味で定着していないからだろうか――などと勢いでエラソーに書いてしまったが、えー、わたし自身、ろくろくミュージカルを見たことがないから、口からデマカセです。


 渥美清の「拝啓天皇陛下様」は喜劇といっていいのかどうか。
 渥美清はじめ、出演者はコミカルな動きをしたり、セリフを言ったりする。スタイルは喜劇だけれども、話は重たい。むしろ悲劇だ。いい映画ではある。