熱望と不安

 売り方ということを考えると、一般消費者相手の商品は、感情に訴えるのが手っ取り早い。


 中でも、「〜したい」と欲望、熱望を煽る方法と、「〜したくない」と不安を煽る方法は有力だ。


 前者の例では、シズル感、という言葉が時々、使われる。
 シズルというのは元々、英語で肉をジュージュー焼く音のことだ。これをCMに使うと「肉、食いてえ〜」となって、よく肉が売れたことから広告手法の代表的なものとなった。


 今もやっているかもしれないが、青年がただただお茶漬けをかき込むCMがあった。あれがシズル感を狙った代表的なCMだ。


 もう5、6年前になるが、胃腸を壊して、1カ月ほど入院したことがある。
 このときは、入院期間のほとんどが点滴暮らしで、娯楽といえばテレビと本しかなかった。おかげで、普段、気にも留めないようなCMのシズル感を体験でき、勉強になった。


 繰り返すが、こちらは点滴暮らし。飯は御法度である。
 一番参ったのは、意外なことに「キュウリのキューちゃん」のCMであった。


 的場浩二がキューちゃんをバリボリ音を立てて噛み、湯気の出ている飯をワシワシと食う。マイクをしっかり仕掛けたらしく、音をかなり強調してあった。
 それだけなのだが、何週間も飯を食えない身には、実にこたえた。キューちゃんを小気味いい音で噛む的場浩二に、殺意すら覚えたものだ。いや、マジで。


「絶対に治って、キュウリのキューちゃんで飯を食うのだ! バリボリのワシワシをするのだ!!」
 とベッドに横たわり、点滴を受けながら、誓った。


 もっとも、治ってしまえばキューちゃんへの執着はあっという間に霧散してしまったから、キューちゃんのCMが成功だったのかどうかはよくわからない。


 逆の、不安を煽る手法をよく使うのは、におい方面の商品やサービスである。


 においというのは、すぐ慣れてしまうせいか、自分ではなかなかわからない。
 例えば、外国の空港に降り立つと、その国特有のにおいを感じることがある。
 外国人に言わせると、日本の空港に着くと醤油くさく感じるそうで、なるほど、これは日本にいるとわからないものかもしれない。


 で、におい方面の広告は、消費者が自分のにおいをわからないことにつけこんで、不安を煽る。
「私の口、もしかしたら、臭いんじゃないかしら」とか、「腋臭かも」とか、心配させて、商品を買わせるのだ。
 恥ずかしさもあって、においについては人に相談しにくい。だから、本当はにおっていなくても、つい商品を買ってしまう。


 同じ手は、殺菌や抗菌関連の商品も使う。何しろ、細菌は目に見えないから、不安を煽りやすい(ダニもそうだ)。
「もしかしたら、細菌だらけでは? 子どもが感染したらどうしよう?」と不安を煽って、商品を売りつける。


 熱望と不安については、本当は別に書きたいことがあったのだが、長くなりそうなので、ここまでにしておく。
 今日は、とりあえず、前段。本チャンは明日(たぶん)。


 ところで、あなた、ニオってるんじゃありませんか?


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