昨日は遠山の金さんを斬ったので、今日は旗本退屈男を斬ろうと思う。別に、斬っちゃいないか。
旗本退屈男は、私の世代だとやや縁遠い。数年前にテレビシリーズでやったらしいが、見ていない。
メジャーだったのは、私より二世代か三世代上の人々が青少年の頃だと思う。
それでも、クライマックスで「天下御免の向こう傷、人呼んで旗本退屈男」と決めゼリフを吐くことくらいは知っている。
ここで、私が注目したいのは、この決めゼリフの中の「人呼んで」という部分である。
「人呼んで」というからには、人がそう呼ぶのだろう。
主人公の早乙女主水之介が道を歩いていると、人々がこんなことを口にするらしい。
「おいおい、見ろよ。旗本退屈男だぜ」
「あらまあ、ほんに。旗本退屈男だねえ」
「アハ。旗本退屈男だ。アハ、アハ、アハハハハ」
わけもわからず、笑い出すやつまで出てくる。
そういう陰口(かどうかよくわからないが)の中を歩く、というのはどういう心持ちなのだろうか。
思わず、ボッ、と赤面するんじゃないか。
セリフをうっかり間違えると、またおかしい。
「天下御免なさいの向こう傷――」
謝ってはいけない。
ちなみに、あまり知られていないが、旗本退屈男には弟達がいる。
次男は、
旗本偏屈男
といって、偏屈なのである。兄貴の言うことであっても、まず素直に聞くということがない。
クライマックスでは、「人呼んで旗本偏屈男」と言ったきり、座り込んで、テコでも動かない。話が進まないので、悪党どもも困り果てる、という厄介なやつだ。
三男は、
旗本厳窟男
という。陰謀で牢獄に入れられるが、脱獄して、復讐を遂げるのだ。
歌舞伎のネタにもできそうだ。どこかノーテンキな長男の旗本退屈男より、面白い作品になるんじゃないか。
末っ子は、グレて、裏の世界へ。
旗本阿片窟男
阿片の煙が妖しくもうもうと立ちこめる中、その一番奥で美女達に囲まれ、異様な光を帯びた目ばかりをギョロギョロさせている旗本阿片窟男。江戸八百八町の闇の帝王。花のお江戸の暗部である。
兄貴は、他人の問題にあれこれ頭を突っ込む前に、まず身内から成敗すべきであろう。
実は、旗本退屈男には庶弟がいる。いわゆる妾腹というやつだ。
旗本テンツク男
のんきな男である。
武家としては育てられず、町人として育ち、チンドン屋か何かをやっているらしい。のどかな日々を送っているようで、結構なことである。
武家のしきたりだの、上下関係だの、忠義だので、旗本窮屈男として生きていくより、こっちのほうがずっと気楽で、幸せなんではないか。