家庭内テロについて

 現代の日本に生きる我々の多くは、実にたくさんの電化製品を使っている。たいがいは操作がさほど難しくないものだから何の気なしに使っているが、改めて考えるとそれぞれの製品が内に抱える潜在能力というのはすごいものだと思うのだ。

 たとえば、電子レンジである。「チンする」などというふざけた言い回しで使いこなした気になっているが、あれは本当は大変なシロモノだ。

 先日、飯を作るのが面倒くさいので、スパゲッティを茹でて、レトルトのトマトソースを電子レンジで温めることにした。パッケージに、耐熱性の容器に空けてラップしてレンジで3分間、などと書いてあるので、その通りにした。

 途中、パチ、パチ、と音がするのでちょっと気にはなったが、まあ、メーカーさんも3分間と言っていることだし、とそのまま流し、「スパゲッティはアルデンテになったかしらん? フン、フン♪」などと南方で亡くなったお祖父ちゃんに申し訳ないようなことを思いながら、麺を一本取り出して噛み噛みアヂアヂとやっていた。

 突然、パフン!という炸裂音がした。イヤーな予感がしながら電子レンジを見ると、レンジの窓に赤黒い物体がへばりついている。慌ててレンジを開けると、中はトマホークで惨殺の後の現場のようであった。どうやら電子レンジの中でトマトソースが弾けたらしい。ラップが破れ、そこらじゅうがトマトソースでぐちょぐちょである。

 仕方なく後始末をしたが、レンジの中の立方体状の空間のそこここにべっちょりかかってヌラーと垂れ下がっているトマトソースをぬぐっているときの情けなさったらない。「私は運命に選ばれし人間ではないのだなあ」と思い知らされながら、不条理と条理の境目について考えた。