土俵入り

 わたしは相撲の土俵入りが好きだ。


 土俵入りといっても、横綱のそれではなく、幕内力士全員でやるほうのである。


 力士の紹介法としても優れていると思うが、何より、あの全員でやる仕草がいい。
 手を打って、右手を上げ、化粧まわしをちょいと引き上げてから、両手を上げる。



 横綱の土俵入りは、緊張感があり、あれはあれで見物だとは思うけれども、そうしょっちゅう見たいとは思わない。


 幕内力士土俵入りのほうは、全体にだらんとした空気がある。力士は、「ハイハイ、土俵入りね。ハイハイ」と投げ遣りなふうにも見える。


 いや、あるいは、気を入れてやっているのかもしれないが、見ているこちら側には伝わってこない。
 全員で息を合わせて美しくやろうなどと考えていないからかもしれない。


 わたしはその、だらんとした部分をこそ、愛している。いつも「何じゃ、こりゃ」と中途半端に放り出されたような心持ちになる。


 住んでいるところの関係で渋谷を経由駅に使うことが多いのだが、時折、ヒップホップ風の小僧どもを見かける。肩を揺すぶって歩いている。


 小僧同士が会うと、「Yo! Yo!」てな気分で、ハイタッチしたり、腕を絡ませたり指で差し合ったりして、独特のあいさつをする。


 こんなふうにだ。



 ま、さすがにこれはちと長すぎるが。


 見ていて、以前ほど違和感はなくなったが、それでも、お前ら、そんな生まれ育ちしていないだろ、と思う。ワカメの味噌汁、飲んでるだろ、と。


 いっそ、ヒップホップ風の小僧どもも、会ったら、土俵入りの仕草であいさつしたらいいのだが。


 手を打って、右手を上げ、ベルトのあたりをちょいと引き上げてから、両手を上げる。


 カッコいいぜ。


 ヒップホップ風の小僧だけではない。
 会社でも、朝のミーティングを始めるとき、円陣を組み、あの仕草を無言でやったらどうだろう(無言が大事である)。
 一日を、実にバカバカしい気分で始められる。


 いや、マジで楽しいよ、きっと。
 社内プロジェクトチームのミーティングなんかにもオススメです。

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「今日の嘘八百」


嘘五百四十一 谷亮子の次の目標は「ババアでも金」だそうである。